慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)は次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに特化した学位プログラム「Executive MBA(EMBA)」を開設している。「EMBA」プログラムの目玉の1つが、企業経営者らの講演と討論を通して、自身のリーダーシップや経営哲学を確立する力を養う「経営者討論科目」。日経ビジネスオンラインではその一部の授業を掲載していく。
1月には医療情報のネットワーク化を進めるメディカル・データ・ビジョンの岩崎博之社長が授業を行った。創業後の数年間、メディカル・データ・ビジョンはビジネスが思ったように進まず赤字続き。一時は9億円の累損を抱えた。それでも岩崎社長は投資家の理解を得る努力を続け、目指すべき目標に向かいブレずに取り組みを続けた。厳しい環境の中で、ヒト・モノ・カネという経営資源をどのようにやりくりしたのか、詳細に当時の状況を語った。
(取材・構成:小林 佳代)

メディカル・データ・ビジョン代表取締役社長
1960年生まれ。1986年新日本工販(現フォーバル)入社。1988年アレック代表取締役就任。1994年アイズ常務、1997年クーコム常務、2001年システムアンドコンサルタント取締役などを経て、2003年メディカル・データ・ビジョンを設立し代表取締役に。2014年同社代表取締役社長に就任、現在に至る。(写真:陶山勉、以下同)
投資家の質問に対し、納得感のある答えをすぐに返す
医療・健康業界の情報について問題意識を持ち、メディカル・データ・ビジョンを創業して思い描いたビジネスモデルを作り上げてきた私ですが、ここまで来る道のりは平坦ではありませんでした。
経営はヒト、モノ、カネで動きます。最初に行き詰まったのはカネでした。1500万円の資本金で始めた会社が5年後には9億円の累損を抱えていました。病院との信頼関係を構築するため、ユーザー会をつくり、コールセンターをつくりとカネをどんどん使っていましたから、赤字は膨らむ一方でした。
そのとき、社長である私がまず一番にしなければならない仕事はカネを集めることになりました。カネを集めるには計画を立てなくてはなりません。その際、重要なのは計画のロジックが破綻していないこと。自分にとって都合のいいロジックは捨てなくてはいけません。
大きなお金を集めようとすればたくさんの人と関わることになります。投資家の元を訪ねれば、次から次へと厳しい質問が ── 時には少々意地悪な質問も投げかけられます。それに対して即座に、必ず納得感の得られる答えを返さなくてはなりません。
投資家に「ダメ出し」された時は、素直さが大事
カネを集めることがまず一番の仕事でしたから、私は常に厳しい質問を想定し、適切な答えを用意しておくことを習慣づけていました。「こんな風に聞かれたらこう答えよう」「この言葉はシャープではないから、こちらの言葉にしよう」「この一言は誰もが頷くはずだから使ってみよう」という具合です。寝ている間もやっていました(笑)。
お金を出す側の人たちからは、当然ながら否定的なこともたくさん言われます。「そんなことではダメでしょう」ということを山ほど言われる。これに対して、多くの人は「いいえ、大丈夫です」と答えることと思います。ところが、それで「なぜ大丈夫といえるのか」を詰めていくとロジックが破綻してしまいます。否定の問いに対して、さらに否定で答えるとうまくいきません。
私の経験では、お金を出す側の人が「これではダメでしょう」と否定してきた時、「本当にその通りですね」と肯定で返すと、不思議な話ですが、相手は急に味方になってくれます。つまり素直さが大事だということなのでしょう。これは数々の経験でつくづく感じたことです。
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