慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)は次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに特化した学位プログラム「Executive MBA(EMBA)」を開設している。「EMBA」プログラムの目玉の1つが、企業経営者らの講演と討論を通して自身のリーダーシップや経営哲学を確立する力を養う「経営者討論科目」。日経ビジネスオンラインではその一部の授業を掲載していく。
1月の講義には医療情報のネットワーク化を進めるメディカル・データ・ビジョンの岩崎博之社長が登壇し、2003年にメディカル・データ・ビジョンを創業した背景やそのビジネスモデル、目指す未来の姿などを説明した。足がかりの全くない医療業界に新規参入後、顧客である病院からの信頼を獲得するため、毎年の赤字で累損を膨らませながらもユーザーサポートに最大限の力を注いだことを振り返った。
(取材・構成:小林 佳代)

メディカル・データ・ビジョン代表取締役社長
1960年生まれ。1986年新日本工販(現フォーバル)入社。1988年アレック代表取締役就任。1994年アイズ常務、1997年クーコム常務、2001年システムアンドコンサルタント取締役などを経て、2003年メディカル・データ・ビジョンを設立し代表取締役に。2014年同社代表取締役社長に就任、現在に至る。
患者にもメリットのある仕組みをつくりたい
今日は私がメディカル・データ・ビジョンという会社をなぜ始めたのか、どういうビジネスモデルで経営をしているのか、うまくいかなかった時期をどう乗り越えたか、そして今後、どのように成長していこうと考えているのかといったことをお話ししていきたいと思います。
メディカル・データ・ビジョンの設立は2003年8月。そして2014年12月に東証マザーズに上場し、昨年(2016年)11月に東証第1部に変更となりました。
創業時、私は医療・健康業界の情報には解決すべき問題が多いと感じていました。他業界に比べて圧倒的にIT(情報技術)化が遅れている。病院に保管されている医療情報が十分に利活用されていない。患者が自身の医療・健康情報を把握できていない。
私はこれらの医療・健康情報の問題をクリアするビジネスを手掛けたいと思いました。健診データ、診療データ、退院後データをたくさん蓄積し、それらを十分に生かして医療の質を高めたい。患者にもメリットのある仕組みをつくり医療業界を改革したい。こういう思いで14年前、メディカル・データ・ビジョンを設立したのです。
医療情報を集積し、集めた情報を分析・活用する
現在、当社のビジネスは2つの柱があります。1つが病院向けに経営支援分析システム等を提供し、医療情報を集積する「データネットワークサービス」。もう1つは集めた医療情報を分析して製薬メーカー等に提供する「データ利活用サービス」です。現在、医療機関から2次利用の許諾を得て集積した医療データは1723万人分(2016年12月末現在)。国民の8人に1人のデータをメディカル・データ・ビジョンは保有しています。
このビジネスモデルを構築するまでのメディカル・データ・ビジョンの歩みを振り返ります。
医療の質向上と患者メリットの創出を目指して、まず私たちは各病院の中だけにあったデータを、利活用できる形式で外に出そうと考えました。といっても、設立したての小さい会社が病院の院長に「先生、診療データを活用させてください」と頼んでも出してくれるはずはありません。それには、私たちのことを信頼してもらう関係をつくることが必要でした。
そこで、関係を構築する第1段階として病院経営に役立つパッケージソフトをつくることにしました。そのパッケージソフトを病院に販売するとともに、思いつく限りのアフターメンテナンスを徹底的に行い、病院からの信頼を得ることで、医療データを集約していこうと考えたのです。
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