冷静に分析すれば、社長が言いたかったのは表面的なことではなく、「タフな気持ちを持って決断せよ」ということです。そこで見かけ上は元の自分に戻し、タフな決断が迫られた時には迷わず決定し、社員にその決定を明確に伝えるように心がけました。
怒鳴り散らす米国人に“純和風営業”貫く
その後、90年代後半に米国に転勤になります。当時、米国で勤務する日本人社員は日本人向けの特別な仕事とか、日系企業の営業担当を請け負うのが一般的でしたが、私は「せっかくだから、普通の米国人がやっているような仕事をやりたい」と希望を出していました。願い通り、北東地域のセールスマネージャーの任務を与えられ、喜びいさんで渡米しました。
ところが、いざ米国に向かう飛行機の中で、突然、強い不安に襲われてしまいました。部下は全員米国人、顧客も全員米国人。そんなところに日本人が1人で行って仕事になるだろうかと思ってしまったのです。
その気持ちを引きずり、不安たっぷりで着任し、部下を前にした最初のあいさつではガチガチに緊張してしまいました。しょっぱなから失敗してしまったのです。
その後も苦戦続きでした。ちょうどその時期、GEは全社的に値上げを進めていて、営業部は取り引きのある企業に対して値上げ交渉をしなくてはなりませんでした。
ある時、部下から、「どうしても値上げを認めてくれない会社があるので一緒に来て交渉してくれ」と頼まれ、「よし、分かった」とついて行きました。先方の会社に着いて、部屋に入り、購買担当の人が出てきて、さあこれから話し合いをしようという段階になったら、先方はいきなり真っ赤な顔をして怒鳴り散らし始めました。
「値上げなんて冗談じゃない。1銭たりとも絶対にのまないぞ!」
ものすごい剣幕です。途中から相手は立ち上がり、机をたたきながら叫び始めました。
私は日本でもずっと営業を担当し、色々な交渉を経験していましたが、そんなスタイルは初めて。「なんだ?これは」と思いましたが、部下がいる手前、「ここでなめられちゃいけない」と必死で、私も立ち上がって怒鳴り返しました。
「絶対、値上げをのんでもらわなきゃ困るんだ!」
けれど、私は今までそんなスタイルで交渉したことはありません。しかも英語ですから、相手には全くかないません。
こてんぱんにやられて、そのまましょんぼりと2人で帰りました。おそらく、一番がっかりしたのは私の部下でしょう。事態を打開しようと上司を連れて行ったのに、相手との関係はより悪化してしまった。予想外の展開だったはずです。
こんなケースが幾つか続き、仕事はうまくいかない、部下からの信頼は得られないという悪循環に陥ってしまいました。米国に着任して数カ月は悩みと苦しみの連続でした。
ある日、ゆっくりと我が身を振り返って考えてみました。「無理してもできないことはできない。それよりも自分のスタイルで試してみよう」と思い至りました。
ちょうど別の会社に値上げ交渉に行く機会がありました。先方の購買担当はまた前の会社の購買担当と同じように立ち上がり、「絶対、値上げなんて受け入れないぞ」と怒鳴っています。
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