「なるべく長い期間、安心して召し上がっていただきたい」

受講者:虎屋では2009年に和菓子の賞味期限を延長しています。賞味できる期間を長くするということは、「おいしい和菓子を喜んで食べていただく」という経営理念と相反することにならないのか。食品ロスを削減するという狙いは非常によくわかるのですが、経営者としてあえて勇気をもって難しいことを判断した背景に、何があるのかを聞かせていただければと思います。

黒川:賞味期限を延長したといっても、何か特別な添加物を入れたとか、作り方を変えたわけではありません。私の基本的な考え方として、たとえ日持ちするようになるとしても、お客様が商品パッケージの裏のシールをご覧になった時、「これはなんだ?」と思われるような原材料は入れたくない。ですから、ものによっては期限を延ばしていないものもあります。

 あまりご存じない方も多いと思うので、賞味期限の決め方をご説明します。これは実は各企業に任されているものなのです。基準などはありません。企業ごとにいろいろと味覚や微生物などの検査をして、「作りたてと味がほとんど変わらない」というタイミングを見極めています。役所の指導で、かつては賞味期限はそれに7掛けしたものとされてきました。例えば「30日間は味が変わらない」と見極めたなら、7掛けで21日間を賞味期限とするわけです。しかし、ある時、食品ロスが問題になって7掛けでなく8掛けにしろという指導に変わりました。これだと24日間が賞味期限ということになります。

 私は、企業が「味が変わらない」と見極めた期間の、9掛けを賞味期限とすべきだと思いました。つまり30日間、味が変わらないと企業が見極めたなら、27日間は責任を持つべきだと。食品メーカーとして、お客様になるべく長い期間、安心して召し上がっていただきたいという思いからです。賞味期限を延長することが勇気のいる判断だったのではないかといわれれば、そうかもしれません。作り手にも「そういうふうにするから頼むぞ」ということはかなり伝えました。

高齢化社会、「御用聞き」復活の可能性も

受講者:「高齢者にやさしい企業を目指す」というお話がありました。接客にも非常に力を入れていらっしゃるということですが、これからは、接客以前の前段階として、商品をどうやって顧客に届けるかが、重要になるのではないかと思います。「デパートに行って虎屋のおいしい和菓子を買おう」と楽しみにしてきた高齢者の方々が、歳を重ねて外出すること自体が困難になった時、どうやって虎屋の良さを届けるのか。工夫が必要になるのではないかと思います。何か策を考えていらっしゃいますか。

黒川:世の中の潮流でいえば、Eコマースで買い物をする方が増えていますので、我が社も充実させようと考えています。また、今の時代だからこそ、かつての「御用聞き」のような販売スタイルを復活できるのではないでしょうか。お客様をこちらからお訪ねして、「何か必要なものはございませんか」と聞いて回るというものです。あるいはお電話をいただいて、こちらから直接お届けするということもできるかもしれません。それが売り上げの何%になるのかといえば、微々たるものでしょう。けれど、そういうところでお客様を大切にすることが大事だと思いますし、その手間を手間と考えずに、できたらよいと思っています。 (了)

「今の時代だからこそ、かつての『御用聞き』のような販売スタイルを復活できるのではないか。手間を手間と考えずにできたらいいなと思っています」