フランス・パリには1980年に店を出した

受講者:「羊羹を世界へ」というスローガンを掲げているというお話がありましたが、現在、グローバル展開はどのように進めていますか。

黒川:フランス・パリには1980年に店を出しました。その前年にパリで開催された菓子の国際博覧会に出品した時、「和菓子っておもしろいね」と好評をいただき、父が「ぜひ店を出したい」と思ったようです。本当に単純な話で、十分な市場調査もせず、勢いで出て行った。以来、36年になります。軌道に乗るまでに16~17年かかりました。今、パリ店はお客様の8~9割が外国人(日本人以外)です。

 一方、米国・ニューヨークの店は10年間営業して撤退しました。ニューヨーク店はパリとは違って、現地や観光の日本人に頼ってしまっていたところがありました。そこに2001年の同時多発テロが起きて、日本人がガクンと減ってしまったのです。マイナス要素が多くなってしまったので、撤退の決断をくだしました。やはり苦しくても15~16年は頑張らないといけなかった。現地の方たちに理解していただき、その方たちに一緒になって商売していただくのには、それぐらいの時間が必要だったと思います。

働き手のことを考えて年中無休をやめた

受講者:政府は今、「働き方改革」を進めています。電通の女性社員が長時間労働の末に過労自殺した出来事も、大きな問題となりました。この件に関して、黒川社長は雑誌記事で「電通だけが悪いという話ではない。土日、夜も関係なく仕事を依頼する取引先にも問題がある」と指摘していらっしゃいます。本当にその通りだと思います。しかし一方で、実際には自分の会社も、取引先に無理なお願いをしている現状がある。自社にもお客様がいて、その要望に応えなくてはいけないからです。経営者として、企業人として、この問題にどう対処していくべきなのでしょうか。アドバイスをいただきたいと思います。

黒川:「物わかりがよくなりすぎない方がいい」とは思います。どういう意味かと言うと、相手に対して「その事情はよくわかる」「それは大切だ」とすべて同調していたら何も変わらない。誰かに負担がかかることをある程度覚悟しなくては、決断は下せないだろうと思います。

 大事なのは、その先にあるものが何なのかを考えることです。「売り上げを伸ばす」「会社を大きくする」という最終目標のために無理をしようとしているのなら、「そもそも大きいことはいいことなのか」と問い直さなくてはいけない。それに対する見解、価値観をはっきり持っていないと先に進めません。

 さきほどご説明した通り、私は売り上げを伸ばすとか、会社の規模を拡大するということは考えていません。私の父の時代には我が社は年中無休でした。元日も店を開けていました。父は虎屋の年中無休を誇りに感じていて、「元日に銀座通りを歩くと、開いているのは一番古い虎屋と、一番新しいマクドナルドだけだ。ほかの店はみんな休んでいるけど、あれでいいのだろうか」とよく言っていました。あの時代の商人の考え方としては、それで良かったのだろうと思いますけれども。

 しかし、今は時代が変わりました。もっともっと、働いている人のことを考えなくてはいけません。このため、数年前から年中無休をやめ、休業日をつくりました。もしかしたら、結果的にお客様にご不便をおかけしているのかもしれません。でも、もしそうならば、他にどういう手を打てば、そのご不便を少しでも軽減できるかと考えればいい。目標をどこに置くのかを問い直し、あまり物わかりがよくなり過ぎない。これが必要なのではないかと思います。