技術を「盗んでやる」というぐらいの意欲が必要

受講者:ものづくりにかかわる会社を経営しています。職人たちを大勢抱えている中で苦労するのが技術、技の継承です。職人というのはやはり「自分で学べ」という空気があり、ベテランの職人が丁寧に若い職人に教えるということはあまりないようです。菓子職人の世界でも同様ではないかと思いますが、虎屋ではどのような形で技術継承をしようとしていますか。

黒川:確かに、かつては作り方や材料の塩梅、配合などが特定の職人の頭の中にしかないとか、職人が持っているノートにしか書いていないということがありました。しかし、虎屋では何十年か前から、パソコンの中に情報を蓄積し、皆で共有できるようにしています。それを見たり、教えてもらったりというのは自然なことになっています。

 ただ、先輩の職人から教えてもらったことだけをやれば、いいものができるかというと決してそうではありません。ほかの業種でも同じでしょうけれど、「盗んでやる」というぐらいの意欲を持つことが大切。ベテランの職人は若い職人にそういうことも伝えています。今はベテラン職人の間でも「伝えよう」「引き継ぐことが大切」という意識が高まっていますから、「知りたければどんどん教えていくぞ」という姿勢も示しています。このため、技術や知識を伝えること、盗むこと、その両面を持ち合わせています。

「先輩の職人から教えてもらったことだけをやれば、いいものができるかというと決してそうではありません」

「TORAYA CAFE」で新たな顧客層を開拓

受講者:虎屋の主な購買層は40代後半以上ということでした。以前、私が本店を訪ねた時には、周りにいたお客さんは皆さん年輩の女性で、男性は私ひとりでした。購買層を、子供も含めたより若い年齢層や、男性、また外国人などにも広げるような施策は考えていらっしゃいますか。

黒川:若い方に食べていただくというのは非常に大切なことだと考えています。そこで、お子様向けに和菓子教室なども開いています。10年以上前になりますが、「TORAYA CAFE」をつくったのも若いお客さまに知っていただくことが狙いのひとつでした。和菓子でも洋菓子でもない、虎屋が作る新しい菓子というコンセプトで提供しています。

 そもそも和菓子とは何か。私どもは「植物性の材料でつくる菓子」だと定義していますから、基本的に卵や牛乳は使いません。虎屋は500年以上にわたり和菓子を追求してきたわけですが、そればかりだとどこかで行き詰まりを感じることがあるかもしれない。少し門戸を広げて、和菓子でもない洋菓子でもない菓子をつくろうと挑戦したのが「TORAYA CAFE」です。ここでは、牛乳やチョコレートなども使った菓子をつくっています。

 こういう新しいことに挑戦する時には、やはり社内で反発もありました。しかし、思い切ってやった結果、今まで「虎屋を知らなかった」「和菓子はあまり食べなかった」という方が、虎屋や和菓子に興味を持ってくださるようになった。社員からも「店頭でお客様がそう言ってくださいました」という報告を、よく受けるようになりました。

 これからは目的別、国別などの和菓子の開発も、考えていく必要があると思っています。例えば、羊羹(ようかん)は非常に日持ちのする菓子。防災用の非常食などにも適しています。チョコレートなどと異なり気温が高くなっても、形が崩れたり溶けたりしないというメリットもあります。

 2016年にはリオデジャネイロオリンピックがありましたが、以前に比べて「羊羹を食べたい」という選手が多くいらっしゃったため、各協会や選手にお渡ししました。こういう目的に合う商品を開発することで新たな需要を開拓できるのではないかと考えています。

「TORAYA CAFE」で販売している「あずきとカカオのフォンダン」と「あんペースト」。(写真提供:虎屋)