慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)は2015年4月、日本で初めてエグゼクティブに特化した学位プログラム「Executive MBA」を開設した。第一線で活躍する経営者の能力と魅力の原点を突き詰め、自身のリーダーシップと経営哲学を確立する力を養う「経営者討論科目」の中から、今回は世界最大級のグローバル企業・米ゼネラル・エレクトリック(GE)グループで要職を担ってきた熊谷昭彦日本GE代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の講演を掲載する。
GEは今、産業界で進むIoT(モノのインターネット)の流れに乗り、次世代型製造業へと脱皮しようと大がかりな変革を進行中だ。熊谷氏はその取り組み内容を詳細に解説。自身がGEに在籍した30年あまりの中では最大の変革であると評した。
(取材・構成:小林佳代)

1979年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校経済学部卒業。三井物産を経て1984年にゼネラル・エレクトリック(GE)に入社。日本ジーイープラスチックス代表取締役社長、GE東芝シリコーン代表取締役社長兼CEO、GEコンシューマー・ファイナンス代表取締役社長兼CEOを歴任。GEのコーポレート・オフィサー(本社役員)にも就任する。2007年GE横河メディカルシステム(現GEヘルスケア・ジャパン)代表取締役社長兼CEOに。2009年 GEヘルスケア・アジアパシフィックプレジデント兼CEOを兼任。2011年 6月GEヘルスケア・ジャパン代表取締役会長に就任。2013年12月より現職。(写真:陶山勉、以下同)
今日は「ゼネラル・エレクトリック(GE)の変革とリーダーシップ」というテーマで話をしていきます。
まずはGEが今、全社を挙げて進行中の変革を説明しましょう。
ご存じの通り、GEはエジソンがつくった会社です。エジソンは常にこんな言葉を口にしていました。
GEの基盤は「エジソンスピリット」
「世界がいま本当に必要としているものを創るのだ」
エジソンは発明王として有名ですが、研究室で何かを発明し、それを世の中に出すのではなく、世の中で一番必要とされているもの、世の中の人たちが一番困っているものを徹底的に調べ、それにつながるような発明をしようという発想の持ち主でした。この“エジソンスピリット”は今もGEのカルチャーの基盤となっています。
現在、GEは発電・送電機器、航空機エンジン、医療用画像診断機器、ディーゼル機関車、家庭用電化製品、金融などの事業を営んでいます(注:講演した12月11日時点)。
今のジェフリー・イメルトが会長兼CEOになってから十数年の間に、GEは大きな変革を何回か遂げてきました。
その1つはポートフォリオの入れ替えです。
かつてのGEはコングロマリットで多岐にわたる事業を手掛けていました。イメルトが会長になってからは、主流、本流であるインフラ事業から外れる事業はたとえ儲けが出ていても手放し、中核事業に集中してきました。
主な事業だけでも2005年に保険、2007年にプラスチック、2011年に放送各事業を手放しています。プラスチック事業は前CEOで「経営の神様」とすら言われたジャック・ウェルチが生み育てたもの。イメルトが手放す際には相当な勇気が必要だったと思います。それでも将来、GEが向かうべき方向と素材産業はそぐわないと決断し、実行しました。
一方で2015年11月には仏重電大手アルストムの発電・送配電事業の買収を完了するなどインフラ事業のビジネスは強化しています。
今はまた金融部門のGEキャピタルを手放そうとしています。一時はGEの利益の6割ほどを稼いだ部門ですが、リーマン・ショック後、業界の規制なども厳しくなる中、将来にわたって持つべき事業ではないという判断を下しました。
このように、GEは”インフラ事業“のインダストリアルカンパニーを目指し変革を遂げてきました。
ただ、この分野には独シーメンス、日立製作所、三菱重工など強力な競合メーカーもひしめいています。これらの競合の中で一歩、先に行くためにはどうすれば良いか。次世代型製造業へと進化を遂げるべく、3~4年前から投資し始めたのがソフトウエアです。
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