慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネス・スクール)が次世代の経営の担い手を育成すべく、エグゼクティブ向けに開設する「Executive MBA」。2017年12月の経営者討論科目ではNTTドコモの山田隆持顧問が「経営とリーダーシップ」をテーマに講義を行った。
2008年から4年間、NTTドコモの社長を務めた山田顧問は、2011年の東日本大震災発生時、危機管理の先頭に立った。震災翌日にはヘリコプターに乗り込み現場の状況を自身の目で確認。震災発生直後から1日3回、電話で対策会議を開催し、即断・即決で危機を乗り越えた。未曾有の大災害が起きた時、経営者は何を考え、どういう行動を起こすべきか。自らの体験を踏まえて意見を述べた。
(取材・構成:小林 佳代)

NTTドコモ顧問
1948年兵庫県生まれ。大阪大学工学部通信工学科卒業。1973年大阪大学大学院工学研究科修了後、日本電信電話公社(現NTT)に入社。2001年NTT西日本取締役設備部長、2002年NTT西日本常務取締役ソリューション営業本部長などを歴任後、2004年NTT代表取締役副社長に。2007年NTTドコモ代表取締役副社長に転じ、2008年NTTドコモ代表取締役社長に就任。2012年NTTドコモ取締役相談役を経て、2015年より現職。(写真:陶山 勉)
緊急時には指揮命令系統を確立してシステム的に動く
私は2008年から4年間、NTTドコモの社長を務めました。その間には東日本大震災を経験しています。未曾有の大災害が発生した時、経営者として何が重要と考え、どう行動したか。ここからはそれをお話ししていきます。
災害発生時の対応において、あくまでも「本社として重要なこと」という前提で聞いてください。
まず重要なのは、指揮命令系統を確立し、情報を共有化することです。これらは組織としてトータルパワーを発揮するために絶対に必要なことです。個人の思いつきで命令してしまうと現場は混乱してしまいます。指揮命令系統をしっかり構築してシステム的に動くことが求められます。
本社の部長クラスの人間であれば、これまでの経験を踏まえ、こうした災害時に「やった方がいい」と思う施策が幾つかあるはずです。どの施策もおそらく内容は間違ってはいないでしょう。しかし、それを各部長が勝手に指示してしまうと、ある部長から指示されたことと、別の部長から指示されたことに必ずズレが生じてしまい、結果として現場が大変混乱することになります。本社での意思疎通がきちんとできていないと、現場は一元的に動けなくなってしまうのです。そのためにトップと各部門が常に現場の状況を把握し、情報共有しておくことが重要です。情報共有化ができると「即断・即決」が可能となり、その後の対応も統合的にうまく進みます。
1日に3回、本社と東北支社を電話で結び「災害対策会議」
ドコモでは3月11日の震災発生から3月25日まで毎日、10時、13時、17時と1日3回、本社と東北支社をつないで電話で「災害対策会議」を開いていました。今、どんなことが起きているかを確認し合ったのです。この会議には社長以下、役員、関係部門が全員出ることを義務づけていました。また、東北以外の全国の災害対策室にも全部それを聞いてもらうようにしました。
大災害の発生時には、膨大な項目について即断・即決しなくてはなりません。それも正確にです。誤りは許されません。
すみやかに正しい判断をするにはトップが常に現場の状況を把握し、関係者が互いに情報共有するという仕組みが絶対に不可欠です。社長や副社長など判断できる人間が会議に出ていないとどうなるか。会議で「こういう施策をやりたい」となっても、社長に決定してもらうためには、状況・背景から説明する必要が生じ、その資料を作成しているだけで、対応が半日遅れてしまいます。その場にいれば、「こういうことをやりたい」という提案に対し、「それで良い」とその場でGOサインが出せます。5分で決断ができます。
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