「飛び上がって届くか届かないかぐらい」の目標を設定する

 事業の目標は高く設定すべきです。具体的には手を伸ばし、飛び上がって届くか届かないかぐらいの目標にする。現状で達成できる範囲の目標を立てるのでは進歩が望めません。高い目標を掲げると、それを達成するために様々な手段を考えて行動することになります。これが進歩につながります。その代わり、高い目標を立てた部署が、その目標を達成できなかったとしても、取り組みの努力、進捗などに応じて正しく評価する必要があります。

 2011年3月の、東日本大震災が起きてから10日ほど後のことです。あるマスコミがやって来て、「NTTドコモは被災地の通信をいつまでに復旧しますか」と聞いてきました。私は「お客様が望んでいるからできるだけ早く復旧したい。4月末には復旧したいと思います。しかし、まだ現状すらはっきりつかめていないのでよく分かりません」話しました。申し上げた言葉の後半の文脈を踏まえてご理解をいただければ、「まだ決まってません」と言っているのと同じなのですが、翌朝の報道では「ドコモ、4月末に復旧」と大きく出ました。社内は「こんな無責任なことを言ったのは誰だ」と大騒ぎです。私は「はい」と手を挙げました(笑)。そういうつもりではなかったにせよ、お客様は早期復旧を望んでおられる。「4月末」と出たからには、我々としてはそれを目標にしよう。もし4月末までに完遂できなくて「責任を取れ」と言われるのなら、「いくらでも責任を取る」と言いました。結果として、実際に4月末に復旧できました。

「飛び上がって届くか届かないかぐらいの目標を掲げる。現状で達成できる範囲の目標を立てるのでは進歩が望めません」(写真:nexusplexus/123RF)
「飛び上がって届くか届かないかぐらいの目標を掲げる。現状で達成できる範囲の目標を立てるのでは進歩が望めません」(写真:nexusplexus/123RF)

 4月末復旧のために現場は大変な努力をしてくれました。通常の震災なら、基地局の倒れたアンテナを建て直し、電波を送信することを復旧と呼びますが、東日本大震災では津波で基地局そのものが流されていますから、そんなに簡単には対応できません。そこで山の中腹から大きなゾーンに向けて電波を送信することにしました。幾つかのゾーンをまとめて流すのですから電波は薄まります。けれど、通話やメールぐらいは可能です。それ以外にも色々と工夫をこらし、現場はなんとか4月末までにやり遂げてくれました。勇気のいることではありますが、高い目標を掲げることが重要なのだと思います。

大目標を決めたら、リーダーは常に同じことを言い続ける

 そして、大目標を決めたら、リーダーは常に同じことを言い続けなくてはなりません。これがなかなか難しい。同じことをずっと言い続けていると、「あの人は同じことしか言わない」と言われることもあるでしょう。しかし、同じことを言い続けて、言い続けて、言い続けて、初めて、現場の人は「あれは本気だ」と分かってくれる。少し角度を変えて別の言い方をした方が「新鮮」だとか「面白い」だとか思ってもらえるのではないかと錯覚しがちですが、そんなことはない。「目標が変わった」と思われるだけです。聞く方にとっては、同じことを言われ続けて初めて、その目標が不動のものと感じ、行動できるようになるのです。

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