石川県の老舗旅館、加賀屋に学ぶ

「米国の百貨店ノードストロームの“顧客第一”の姿勢を紹介した書籍『ノードストローム・ウェイ』を20年くらい前に読んだ時は、大変衝撃を受けました。しかし今では、「これぐらいはやらないとね」と思う人が多いはずです。サービスは常に進化しているのです」
「米国の百貨店ノードストロームの“顧客第一”の姿勢を紹介した書籍『ノードストローム・ウェイ』を20年くらい前に読んだ時は、大変衝撃を受けました。しかし今では、「これぐらいはやらないとね」と思う人が多いはずです。サービスは常に進化しているのです」

 石川県にきめ細やかなサービスで有名な加賀屋という老舗旅館があります。

 1年ほど前に、3代目社長で現相談役の小田禎彦氏がある雑誌でサービスの変化について話をされていました。かつての旅館の特徴は「上げ膳据え膳」、食事中のサービスや布団の上げ下げなど、客室係が部屋に頻繁に出入りして、きめ細かくお客様に気を配るのが当たり前。それこそが日本の旅館の良さでした。

 ところが、最近はお客様によっては「せっかくくつろいでいるところに他人が入ってくるのはうっとうしい」「プライバシーを守ってほしい」などと、部屋に入ることを好まない方も出てきているということでした。これも時代の変化でしょう。

 加賀屋さんは旅行目的、好みなどお客様の情報をきちんとつかみ、要望に応じたサービスを提供しようとされています。サービスの本質を時代に応じて見直そうとされているわけです。私たちも「おいしい和菓子を喜んで召し上がっていただく」ため、そういう時代の変化に常に敏感でいなければならないと思っています。

お客様から教えていただく

 ある時代まで、和菓子に関しては作り手、売り手である我々の方が多くの知識を持っていました。「原材料はかくかくしかじかです…」という具合に、大変失礼な言い方をすれば、お客様に「お教えする」立場にありました。

 しかし、今は多くの情報が氾濫する時代です。お好きな方は我々よりよっぽど「こういうおいしい菓子がある」「こうやってつくっている」ということをご存知ですし、多くの和菓子を召し上がっています。我々がしたり顔で「お客様はご存じないでしょうけれど…」と接することは絶対にできません。どれだけ謙虚に、お客様から教えていただくという姿勢を持って接することができるかが問われる時代になっていると思います。

価値観は大きく変わった

 1964年、東京オリンピックが開かれる際には、新幹線の開業、高速道路や高層ビルの建設など大きな変化が起きました。私は当時、大学生でしたが、とてもワクワクしながらその変化を見守ったものです。しかし、2020年に開かれる東京オリンピックはずいぶん様相の異なるものになるでしょう。

 50数年の間に人々の価値観は大きく変わりました。50年前には豪華であることに価値があり、ものをたくさん持っていることを人生の目標とする気風がありました。今は全くそうではありません。優しさ、思いやり、簡素、静謐…。そういったことを発揮できることが価値になってきています。

 当然、その変化への対応をしていかなくてはなりません。例えば、商品の包装。以前は贈り物にした時に見栄えがよくなるよう豪華に仕立てることが好まれました。しかし、今は簡素でありながらも相手に喜んでいただけるようなひと工夫を施すものが求められます。

 今の時代にお客様が求めていらっしゃる価値は何なのか。我々は日々、それを追求しながら商売をしていくことが必要だと考えています。

1925年(大正14年)正月の店頭風景。(写真提供:虎屋)
1925年(大正14年)正月の店頭風景。(写真提供:虎屋)