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美しい蒔絵が施された「重香合」。香木をのせて間接的に温める銀葉が入っている
(photo by 日本香堂、下2点も同じ)
かつては婚礼の調度品でもあった「香道具」。雅やかであり、厳かでもある
香元により灰に「真の箸目」が付けられる。箸目の無い部分が正面となり聞筋

木下:「香道」において、「志野流」と「御家流」の二つの流派に共通しているところは何でしょうか。知的な遊戯性ということでしょうか。

稲坂:いや、遊戯性というのはあくまで「手段」としてですからね。手段は後から持ち込まれてきたものなんです。定かじゃない香りに意識を一時集中させて、いかに自分の心の中でそれを掴み取るかということがまず大切なことなんです。

 その為に、当たるか当たらないかという遊戯性とか、文学の物語性とか、和歌の世界などを結び付ける、それはそうしたことを組み込んだ方が集中出来、深みと広がりを創ることが出来るからです。

木下:香道の根本は、香りによって、想像を巡らせるということですよね。「聞香(もんこう)」という言葉がありますけれども、それはどういったものなのでしょうか。言葉のイメージからして、感覚を研ぎ澄まして、自分と香りとが向き合うということでしょうか。

稲坂:その通りです。所作的に言うと、2ミリ程に切った貴重な香木を燃やさず温めるんですが、香炉を手で覆い、親指と人差し指の間を少し開け、そこから深く息を吸い込んで香を聞きます。

 この形は、室町時代以降に生まれて完成しましたが、原型は鎌倉時代と考えられます。この聞香が基本となって、香席では、季節や物語、詩歌をテーマとする「組香(くみこう)」が行われるようになりました。

「御家流」の香炉の持ち方は、親指をかけない(photo by nanaco、以下同)
香の世界への第一歩である「聞香」。心を香に傾け、文字通り香を“聞く”こと

木下:「組香」というのは。

稲坂:聞香をさらに発展させたものが組香です。香木の香りを聞き、鑑賞することを「聞香」、一定のルールで香りを聞き分けることを「組香」と言います。

木下:皆で、複数の香を鑑賞するわけですね。

稲坂:日本人のすごいところは、古代から具象じゃなくて抽象の美を愛でる感覚を持っているということです。この抽象世界で、美の体系を創ったのは日本人の美質です。嗅覚で「文学を鑑賞する」という組香というものが生まれました。

木下:それについてもう少しご説明頂けますでしょうか。

稲坂:はい。まずテーマとする和歌があって。例えば、紀貫之の 「桜花 咲きにからしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲」ですね。そこには吉野の山で、山桜がぼんやり春霞で見えているのか、それが白雲なのかが分からないという歌があって。

 それを香席で、今日はこの香木を吉野の山桜とします、白雲を別の香木にします。と、このように決め、それ以外の香もそこに加えて香炉を回すんです。それで、さて吉野の山の山桜と白雲はどこに出てきたのか当ててみましょうという、それが「桜香(さくらこう)」という組香です。実際に桜の香りがするものを使っているわけではなく、心にイメージを描き識別します。