「みなさん、これから私がシャープをどうするか、興味があるでしょう。あるマスコミがこんなストーリーを書いていた。シャープは罠にかかったイワシの群れで、私はそこに放り込まれたナマズだと。イワシは放っておくと弱ってしまうが、ナマズがいると食われまいと元気になる。私はナマズじゃないが、ぼんやりしていたらシャープもホンハイもグローバル市場で食べられてしまう」

 あっ、会長、2012年にそれを書いたのは私です。日本語の記事でしたが、訳して読んでくれたのですね。スピーチの最中「ここです、会長!」と手を挙げたい衝動にかられる。質問できたら、絶対に言おう。

「私の中にはシャープ再建のロードマップがあるが、今日は言わない」

 焦らし方も一流だ。

美味しいところはテリー会長に

 スピーチの後始まった、Q&Aはテリー会長の一人舞台であった。

記者:「シャープの弱みは」

テリー会長:「それについては、もっと狭い会議室で、少人数で議論する。こんな場所では言わない」

記者:「何年でシャープを再建できるか」

テリー会長:「私は腹の中で2年と思ったら、4年と言う。再建を早めたいなら、消費税を上げないようにマスコミが政府に圧力をかけてくれ。そうすれば消費が冷え込まず、シャープは早く立ち直る。税収も増えるはずだ」

記者:「ホンハイが第一弾として支払った1000億円をシャープは何に使うのか」

高橋社長:「ホンハイは、これは買収ではなく投資だと言ってくれている。できるだけ成長投資に使いたい」

 すると戴副総裁が日本語で付け加えた。

「私からも一言。このお金は戦略的に使ってもらうために出すのだが、できれば(ニトリへの売却が決まっている)大阪本社を買い戻したい。何といっても100年企業のシャープですから。シャープと早川徳次の博物館も作りたい」

 ツボをついたコメントだ。疑心暗鬼になっているシャープ社員の気持ちを、わかっていらっしゃる。これが生きた金の使い方である。

 円満だった記者会見のテンションが上がったのは、米国通信社の記者が英語で質問した時だった。

「2月の合意から結局、出資額が1000億円減った。この後も減る可能性はあるか」

 テリー会長が目を剥いて行った。

「何を言っているのかわからない」

 記者も食い下がる。

記者:「出資額の見直し、減額はないか」

テリー会長:「質問の意味がわからない」

記者:「減額はないか」

しばしの沈黙。会場が固唾を飲んで見守る中、テリー会長はきっぱり言った。

「減額はない。今日、こうして契約したのだから」

 そう言うと、テリー会長は隣に座る高橋社長の手を取り、強引に握手した。期せずして会場から沸き起こる拍手。役者やのう。

 シニア記者はQ&Aセッションの最初から最後まで、手を挙げ続けたが、ついに指名はもらえなかった。どうせフリーランスですからね、とひがんだら負けである。負けるな、俺。手を挙げ続けろ、俺。

 美味しいところを全部持って行ったテリー会長は、上機嫌で会見場を去って行った。しかし、何が飛び出すかわからないのが「テリー劇場」。払い込み期限の10月5日までは安心しないほうがいい。

 2012年以来、何度も驚かされ続けてきたシニア記者は、自分にそう言い聞かせつつ、帰りのバスに乗り込んだのであった。