建築家の安藤忠雄氏は「関西人の良いところは楽観的なところで、関西人の悪いところは楽観的すぎるところだ」と述べていた。シャープはまさにその典型例だろう。トップマネジメントが楽観的すぎたことが、シャープの自力再建断念という最悪の状況を招いた。しかし、一方で、楽観的な現場が、「おもろい家電を作りつづけるシャープ」を守り続けているといってもいい。

技術より雇用を守ることが真の技術流出防止になる

 今回、シャープが報道されているように産業革新機構の案を受け入れるとすれば、シャープの経営陣は退陣し、産業革新機構からの支援と銀行の債権放棄によって、キャッシュフローという意味でシャープの経営状況は良くなるだろう。しかし、産業革新機構は投資ファンドでしかなく、今後のシャープの舵取りをどのようにとっていくか、誰に経営をまかせるのかはまだ何も分かっていない。

 一部報道では、「日本資本がシャープの再建を行うことによって、同社の強い液晶技術を守るため」というのが、産業革新機構による再建が他のオプションよりも良いと判断した決め手だという。しかし、それは大きな間違いである。シャープの液晶技術は「ユニーク」ではあるが、「強い技術」ではない。強い技術とは経済的利潤を生み出す技術であり、シャープの技術が強いのであれば、シャープは安泰だったはずである。より正確に言うのであれば、「シャープのユニークな技術を日本国内で更に生かしていく体制を残していく」ことが、必要なのである。

 また、なによりも、シャープにとって大切な資産は「商品企画力」である。それは組織に暗黙知的に、企業文化、人間関係、会社の制度など、組織の文脈によって受け継がれるものであり、こうした組織に粘着する能力は、簡単に模倣できるものではない。このシャープの高い商品企画力を生かしていける再建策を期待したい。

がんばれロボホンのシャープ!

 ところで、余談であるが、11月の大西さんの記事の中に出てくる「高橋さんをいじめる質問が続く中、ロボホンの話で流れを変えて高橋さんを助けた英字新聞の記者」は、読んだ瞬間にピンときた。仲良しのウォールストリートジャーナルのテクノロジー担当記者である。彼は高橋さんを助けようとか、場の空気を変えるために気を利かせるというキャラクターではない。読んだ瞬間に思ったのは「彼はロボホンが個人的に欲しいのだ、ただそれだけで質問をしたのだ」。

 そう思って、本人に聞いてみると、「はい、それ僕です。ロボホン欲しいんで、商品化されるのか、いつ発売になるのか知りたかったんです」と。彼は面白い物好きの記者で、とにかくデジタル系ガジェットに目がない。各社が経営者をいじめている記者会見の中でも、商品好きの人間に「なんか、これ欲しい」と思わせるシャープ、それこそがシャープの底力であろう。

まさかとは思うが、また決断できないなんてことは・・・

 最期になるが、ここで言いたかったことは、悪いのは経営陣の経営能力であって、現場の能力は依然高いということ。その経営陣について「決断できないシャープ」と先に述べたが、まさか、もしかして、いやそんなことはないだろうけど、でもやっぱりもしかして、またもや決断できないなんてことが、ないとは言い切れないかもしれない。

 産業革新機構か鴻海かで悩むかもしれないから、というのではない。そもそも「決断できずにズルズル」が今までにあまりにも多すぎたからだ。その意味でも今日のシャープの決算発表はある意味注目であるが、もしかしたら、期待を裏切る拍子抜け、経営改革については先送り、なんてこともあるかもしれない。

 経営戦略上の問題として、「今日決めなければいけないことは今日決める」と同時に「今日決められないことは明日決める」という意思決定が大切な時もある。情勢が不確かなときには早すぎる決断は、失敗を招くことがある。常に早い決断が良いとは限らない。しかし、シャープの場合、雇用を守る、ステークホルダーの心配を一日も早く払拭するという観点から、もう待ったなしである。液晶部門を切り出して別会社化するというのでも、小出し小出しのリストラのようにバラバラに雇用を失うよりはましだ。

 液晶は液晶の組織の塊として、強い商品企画力を持つ白物シャープ本体は本体として、チームの力(技術以外の組織能力)を守るために、これ以上シャープというチームの塊を削り落とすことなく「おもろい家電メーカー」の組織の力を残すため、現経営陣には最善の決断を「今すぐ」にして欲しい。

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