この1年ほどで大都市に一気に広がったシェア自転車など、次々と新しいサービスが生まれる中国で、今度は「無人コンビニ」が登場し、話題を呼んでいる。
6月初旬、上海市内にある仏系スーパー、オーシャンの駐車場にコンテナ型の小型店舗が出現した。店舗に向かって左上には「Bingo Box」(ビンゴボックス)の文字が、右上にはオーシャンの中国語名「欧尚」の文字が入っている。ビンゴボックスは中山市賓哥網絡科技が開発・運営する無人店舗だ。商品の陳列に人手が必要なほかは、無人で24時間営業できる。
同社は2016年8月、広東省中山市に「ビンゴボックス」の1号店を出店した。6月にはオーシャンの店舗に加えて、台湾系のスーパー「大潤発」にも出店している。ちなみにオーシャンと大潤発は中国大陸の事業について合弁会社を設立しており、ビンゴボックスはこの合弁会社と提携して上海に出店した。
24時間無人の店舗には自由に出入りすることはできない。入るためには、まずスマートフォンのアプリ「微信(ウィーチャット)」を使った本人確認が必要だ。扉の横についた2次元バーコードをウィーチャットで読み取ると鍵が開き、店舗内に入ることができる。
ウィーチャットで2次元バーコードを読み取って入店する
店舗の大きさは20フィートコンテナとほぼ同サイズで、面積は15平方メートルほど。日本のコンビニの売り場面積が100~150平方メートルなので、かなり狭い。前の客が店内にいると、入るのをためらうぐらいの広さだ。
上海初の店舗では、お菓子や飲料、ティッシュなどの生活雑貨を販売している。賓哥網絡科技によると商品数は約500SKU(商品管理の最小単位)。日本のコンビニの6分の1程度の品揃えだ。
各商品には独自のチップが張り付けてある。商品を購入する際は、レジの読み取り機に商品を乗せると金額と2次元バーコードが表示されるので、微信支付(ウィーチャットペイメント)や支付宝(アリペイ)でバーコードを読み取って支払いを済ませる。
運営コストは通常のコンビニの15%以下
店舗の扉は常時、鍵がかかっており、店舗から出る際にも開錠する必要がある。商品を購入した場合には、出入り口付近に設置されたセンサーが商品に張られたタグを自動的に読み込んで扉が開錠される仕組みだ。何も買わなかった場合は、扉付近にある2次元バーコードを再度読み込んで、開錠する。
売り場のほか出入り口の扉の上にもカメラが設置されており、購入した商品とともに未精算の商品を持って外に出た場合などは、センサーとカメラで未精算の商品を検知し、顧客の微信に連絡する。
ビンゴボックスの製品担当、鄭国梁氏は「店内で商品を食べてしまうといった異常事態もカメラで検知できるようにしている」と話す。同社によると、動作識別防犯システムや顔認識システムなど16の特許を有するという。
店舗の賃料や店員を雇う賃金が必要ないため、運営コストは通常のコンビニの15%以下に抑えられるとビンゴボックスは説明する。さらに、コンテナ型の店舗の下部には車輪が付いているため、集客が今ひとつといった場合にはすぐに立地を変えられるのも利点だという。
上海のオーシャンの駐車場に設置された店舗はスーパーの真裏で、実験的な位置付けだが、通りかかった人たちが次々と興味深そうに店舗に入っていた。ある男性は「小区(日本の団地に近い、複数の建物が集まった居住区)の入り口などにあると便利そう」と話していた。
実際、ビンゴボックスも小区などでの展開を考えているようだ。自社でも店舗を設置していくほか、上海のように各地の有力小売りと組んで、店舗を広げる計画を立てている。同社の説明によると、既に全国の30都市以上の小売企業などから引き合いが来ているという。
品揃えから考えても、ビンゴボックスは急に必要になったものを買いに行くといった用途がほとんどになりそうだ。中国ではネット通販が急速に伸びているが、急に必要なものがある場合には店舗に買いに行くしかない。ネット通販に押され気味の大型スーパーなどと組んで、ネット通販からこぼれたニーズを取る狙いだ。
また都市中心部では不動産の高騰で、コンビニの出店が難しくなったことや、都市部の人件費上昇も普及の追い風になると考えているようだ。
米国では昨年12月にアマゾン・ドット・コムが無人店舗「Amazon Go」を発表している。レジがなく、商品を棚からそのまま持ち出せば決済が自動的に完了する「Amazon Go」と比べると、ビンゴボックスは先進性では劣る。入るために毎回、2次元バーコードを読み取らなければならない店舗が、どれほど消費者に受け入れられるかも不明だ。だが、新しいコンセプトをいち早く実用化してしまう中国企業のスピード感はやはり侮り難いものがあるのではないだろうか。
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