今から1年あまり前、トランプ大統領が就任した直後に、「トランプ大統領が就任して米中の貿易はどうなるのか」とフェイフェイにたずねた時はまだ楽観的だった。「トランプ氏の発言はショーのようなもの。米国自身も困るような関税をかけるのは難しいはずだ」。

 1年前にフェイフェイが気にしていたのは、トランプ大統領よりも国内の動きだった。習近平国家主席が推し進める官僚の腐敗を取り締まる「反腐敗」の活動に反して、東莞は役人の横暴が目にあまる。そう主張し、東南アジアへ工場を移転する準備を密かに進めていた。今は米国の顧客企業と連絡を取り合って、貿易摩擦の今後を占っている。

 「顧客とも話しているが、貿易摩擦は年内には決着するというのが共通した意見だ」とフェイフェイは言う。摩擦が長引けば長引くほど、中国だけでなく米国の経済への圧力は高まると見るためだ。フェイフェイの顧客であるウォルマートを含む米産業界はトランプ氏の対中関税に反対している。

 11月には米国で中間選挙が実施される。トランプ氏の強硬姿勢は中間選挙向けのパフォーマンスとの見方もできる。「トランプ氏の発言はショー」ととらえれば、中間選挙を境に事態が沈静化することもあり得るとの見立てだ。

 だが、1年前のような楽観的な態度は取れないようだ。フェイフェイは「年内までに終わるという予測はあくまで一般的な状況の下での話だ。トランプが大統領である限り、正確な予測はできない」と言う。「ある時は計算高いビジネスマン、ある時は異常な手段も辞さない政治家」であるトランプ大統領が最大の不確定要素なのだ。

 米中の貿易摩擦が経済問題の範囲内で収まるのであれば、「ビジネスマン・トランプ」の判断が期待できる。だが、米国政府が知財権侵害を制裁の理由にし、中国が掲げる成長分野を制裁の対象としている点を見ると、米国を超えようとする中国を抑え込もうとする動きにも見える。

 一方の中国は事実上の共産党一党独裁体制の下で成し遂げた急成長に自信を深めている。自由主義・民主主義とは異なる方法での発展を世界に示したとの自負だ。

 米中の覇権争い、さらには自由主義・民主主義と「中国の特色ある社会主義」との争いになれば、「政治家トランプ」が前面に出ざるを得ない。一時的にはフェイフェイの希望的観測通り摩擦が沈静化することもあるかもしれない。だが、米中両国の長い戦いはまだ緒に就いたばかりと考えると、今回の貿易摩擦は前哨戦に過ぎないとも言えそうだ。