全人代の冒頭で李克強首相が政府活動報告を行ったが……(写真:新華社/アフロ)

 「中国共産党第19回全国代表大会で、習近平(シー・ジンピン)『新時代の中国の特色ある社会主義』の歴史的地位が確立した」

 中国の全国人民代表大会(全人代)が3月5日、開幕した。開幕直後には例年と同様、李克強(リー・クォーチャン)首相が政府活動報告を行い、過去5年の活動の振り返りと今年の政策の方向性、政府の施策について演説した。

 演説が始まってから数分後、過去5年の活動の回顧が始まったばかりのところで、李首相は冒頭のように発言した。「社会主義」の後に続くはずの「思想」の2文字を李首相は発しなかったのだ。

 今回の全人代で大きな話題となっているのが、憲法の改正案である。李首相の政府活動報告の直後には、憲法改正案の説明もなされた。直近では、2期以上連続して就いてはいけないとされていた国家主席の任期制限を撤廃する点に注目が集まっている。加えて、毛沢東思想や鄧小平理論と並んで習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想も憲法に盛り込まれる。

 習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想は毛沢東思想や鄧小平理論と並んで憲法に盛り込まれることからも分かるように、これで1つの言葉だ。会場で配布された政府活動報告の原稿にも「思想」の2文字はしっかりと書かれている。

 習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想は、政府活動報告の中でその後も数回登場し、李首相は冒頭以外では「思想」という言葉をきちんと発している。冒頭で「思想」を発しなかったのは、単なる読み飛ばしの可能性がもちろんある。

 ただ重要な「思想」の2文字を飛ばしたのは事実である。習近平国家主席の権威が高まるにつれ、序列2位である李首相の存在感は低下してきた。革命元老の子弟である太子党の習国家主席とエリート集団の共産主義青年団(共青団)出身の李首相は同世代で、トップの座を争ったライバルだ。全人代の直前には、李首相の側近である楊晶・国務委員が重大な規律違反で解任されたばかりだ。

 ここから先は推測に過ぎないが、習氏が憲法改正により終身の国家主席となる可能性が出てきたことに加え、毛沢東と並んで自らの名を冠した「思想」を憲法に入れようとしていることに対し、李首相がささやかな抵抗を試みたようにも見える。