百聯集団との提携を発表したアリババ集団のジャック・マー会長
「EC(電子商取引)は今、急速に古い概念になりつつある」
アリババ集団のジャック・マー会長は昨年10月、株主に宛てたレターの中で、自らの考えをこう記した。
同社が「タオバオ(淘宝)」や「Tモール」といったサイトを持ち、中国のEC市場で圧倒的なシェアを誇ることは言うまでもない。また、中国のEC市場は成長を続けている。2016年のECによる小売り総額は、2015年から25%以上伸びて5兆元超(約82兆円)に膨らんだ。では、マー氏はなぜECを「古い概念」と呼ぶのか。
2月20日、その答えとなるような発表があった。アリババはこの日、中国の小売り大手の百聯集団と提携すると発表した。百聯集団は上海市に本社を置き、中国国内で百貨店やショッピングセンターなどを運営する。傘下のいくつかの企業は上場しているが、百聯集団自体は上海市国有資産監督管理委員会が全株を保有する国有企業だ。
百聯集団とアリババが協力する分野は幅広い。決済サービス「アリペイ(支付宝)」の百聯集団店舗での利用や会員システムの統合といった比較的、成果の見えやすい分野から、AIやIoTを駆使した新しい店舗の研究にまで及ぶ。アリババは最も変化から遠いようにも思われる国有の小売り企業と組んで、ネットと実店舗の融合を目指す。
「将来は純粋なEC(電子商取引)も純粋なオフラインの商売もなくなると言ってきた」。20日の発表会でマー氏はこう語った。小売りをオンラインかオフラインかで区別する意味はなくなる――。これがマー氏の「ECは古い概念」という発言の真意だ。
米国ではアマゾン・ドット・コムとウォルマート・ストアーズというネットと実店舗の雄が激しく消費者争奪戦を繰り広げている。アマゾンがITを駆使した実店舗を出しオフラインの世界に出てくる一方、ウォルマートはネットでの販売に力を入れる。両社はともにオンラインとオフラインの両方で自らの「帝国」と作ろうと躍起になっている。
一方、アリババはオフラインの巨象と組み、自らは小売業のプラットフォームとしての役割を担うことで、「オンライン企業vsオフライン企業」という争いを超えようとしている。
だが、アリババのようにネットとリアルの消費の融合を語れる企業はほとんどないだろう。日本のコンビニエンスストアも早くからリアルとネットの融合に取り組んできたが、目覚ましい成果が出ているとは言い難い。多くの小売業にとっては、ネットの拡大がもたらす環境変化への対処に追われているのが実情だろう。
中国の個人消費は年間10%程度の成長を保っている。しかし、ネット通販の急拡大で、実店舗中心の小売業の経営は厳しさを増している。特に百貨店は厳しく、繁華街の立地でも閑古鳥が泣いている店舗が多い。百貨店ほどではないが、大型スーパーも厳しく、早くから中国に進出したウォルマートや仏カルフールもネットとの競争にさらされている。
こうした中で、好調を保っているのがコンビニエンスストアだ。出先で何か買いたいといった需要や、今すぐに必要といったニーズに応えてくれるコンビニの存在は、ネット通販が普及しても不可欠だ。
日系コンビニの強みは維持できるか
コンビニは小売業の中でも日本企業が強い領域だ。中国にはセブンイレブン、ファミリーマート、ローソンがそろって進出しており、中国の日常に溶け込んでいる。コンビニ市場の成長は日本勢にとって良い環境ではある。一方で、ネットに端を発する小売市場の変化によって、弁当やおでんなどの商品力やサービス水準の高さといった日本のコンビニの強みが薄れてしまうのではないかとの危惧もある。
理由の一つが、コンビニ市場の競争激化だ。他の小売りに比べ成長しているコンビニの市場には多くの小売り企業が注目している。例えば、卸売の大型スーパーを手がける独メトロは、昨年から中国で「合麦家」というコンビニを本格的に広げ始めた。合麦家は、「麦徳龍」にあやかってつけた名称と見られる。「メトロ」は中国語名を「麦徳龍」という。メトロの音に漢字を当てたようだ。また厳密にはミニスーパーに近いが、カルフールも「イージー」と呼ばれる小型店舗の業態を中国で展開している。
中国企業が手がけるコンビニも出店を拡大している。大きな地方都市では国有企業が運営するコンビニも多い。こうした店舗は、品揃えやサービスなどあらゆる面で日本のコンビニに及ばない。ただ、一方でコンビニは立地の良し悪しと加盟店の支持に左右されるビジネスでもある。中国系のコンビニは、店舗開発や加盟店集めの点で日系より優位に立ちやすい。
もう一つの理由が、ネットサービスの影響だ。コンビニはネットとの相性が良いとはいえ、その影響は受ける。特にアプリで注文すると外食店の料理を配達してくれる「外売」と呼ばれるサービスの普及は、「独占と規制が生んだ中国タクシーのチップ問題」で触れたように、日系コンビニが得意とする弁当類と競合する。
ポイントサービスを導入したローソン
昨年12月、ローソンは中国でスマートフォンアプリ会員に対するポイントサービスを導入した。ローソンが出資した香港のベンチャー企業、ニューヨレン(游仁堂)と共同でアプリを開発。会員アプリで顧客の購入動向などを分析することもでき、ポイントサービスとともに来店頻度の向上や買い上げ点数の拡大などに生かす狙いがある。
ローソンは昨年、中国進出から20年を迎え、中国市場での店舗拡大を加速する戦略を打ち出した。さらに、ポイントサービス導入によってネットや他のコンビニに流れないよう消費者を囲い込むことで、中国事業の拡大と黒字化を図る計画だ。
アリババがオンラインとオフラインの融合を進めていくとするならば、消費者が店を選ぶ際の基準は今後、さらに変化をしていくことが予想される。消費者の見る目が変わる中で、自らの強みを強みのままにし続けることができるのか。日本企業に限った話ではないが、常に見つめ直す必要がありそうだ。
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