義手は、パソコン制御で動くモーター部分(本体)と複数のワイヤーでつながっている。例えば、「グーを出したい」と義手の装着主が考えれば、腕に付けたセンサーがそう考えた際に発せられる電気信号のパターンを読み取る。この情報を基にモーターが動いてワイヤーを引っ張り、手の形が「グー」になる仕組みだ。

 「今まで使用していた義手は開くか閉じるかの動きしかできず、いわば動作のサポート的存在だった」と前田さんは振り返る。メルティンMMIの義手を使えば、自分のしたい意図を機械が読み取り、その通りに指を動かすことが可能になる。「練習次第で、以前の自分の指により近い動きができるようになるかもしれない」と笑顔を見せる。

高機能な義肢が増え市場は伸びている
●義肢(義手・義足など)装具の国内市場
高機能な義肢が増え市場は伸びている<br />●義肢(義手・義足など)装具の国内市場

IBM「ワトソン」で筋電データの解析も

 設立は2013年。「研究の成果を世の中に還元したい」との思いから、横井教授と、当時計測器や研究用ロボットの設計開発などを手掛けていた伊藤社長の2人で設立した。その後、横井教授の教え子でソフトウエア制御に詳しい粕谷昌宏氏や、ロボットアームのハード技術に強みを持つ關達也氏などが参画し実用化に向けた開発が加速した。

 昨年開催されたサイバスロンのリハーサルでは、義手をつけた選手がリングを持ち、様々な角度に曲げられたワイヤーに接触しないように通していく、いわゆる「イライラ棒」の競技で、出場チーム中、唯一同社だけがクリアできた。手首を器用に動かし、リングがワイヤーに当たらないように通していく動作は難易度が高い。

 筋電データが膨大であればあるほど、指を滑らかに動かすことができる。そこで今後活用していくのがクラウドだ。障害者や健常者の筋電データをクラウド上に蓄積し、「この体勢で手を動かすときはこのパターンの筋電」などといったデータを収集。クラウドで義手の「頭脳」をより賢くさせるのだ。

 サイバスロン出場に当たっては日本IBMも協賛しており、「今後はIBMのAI(人工知能)型コンピューター『ワトソン』の機械学習を活用し、より細かい筋電データを収集、解析する仕組みにしたい」と伊藤社長は期待を込める。

 大会終了後は製品化に向け動き出す。今年度中に横井教授らが中心となって設立するNPO法人を通じ、医療機関などに販売する計画だ。義手のほか筋電計測装置なども販売し、2017年6月期に5000万円の売上高を目指す。

 「将来は障害者だけでなく、健常者の『3本目の腕』として利用することも考えている」(伊藤社長)。例えば工場の作業現場で、2本の手で組み立てながら3本目の義手で次の組み立て部品を取るなどの動きが可能になり、作業効率の向上が期待されている。

 目指すのは人間が機械に合わせるのではなく、機械が人間に合わせる世界。メルティンMMIのメルティンは、人と機械が溶けて融合する「melt in」からとった造語。私たちの一部が「サイボーグ化」し、生活を豊かに変える日もそう遠くはない。

(日経ビジネス2016年10月17日号より転載)