電気通信大学発のベンチャー企業、メルティンMMIのロボット義手が世界から注目されている。ビッグデータやAI(人工知能)を活用し、より人間に近い動きができるよう開発を進める。

ブラジル・リオデジャネイロ五輪の熱狂も冷めやらない2016年10月上旬。今度はスイスで、史上初となるスポーツの世界大会が開催された。ロボット技術を使った最先端の義手や義足、車椅子で争う、身体障害者のスポーツ大会「サイバスロン」だ。別名「サイボーグオリンピック」とも呼ばれるこの世界大会に、電気通信大学発のベンチャー企業、メルティンMMI(東京都渋谷区)が挑んだ。

「洗濯ばさみで洗濯物を挟む動作は少し難しいですね」「4本指の動きがスムーズなので、この形状は簡単につかめます」。大会開幕の1週間前。スイスへの出発を控えたメルティンMMIの社員と、今回選手として出場する前田和哉さんは、入念に最終調整を繰り返していた。前田さんの右腕の肘から下には義手が装着され、5本の指が本物の指のように動いている。
サイバスロンは「サイバー(コンピューター)」と「アスロン(競技)」を組み合わせた造語。世界25カ国74チームがエントリーしており、日本からはメルティンMMIなどが出場した。義手を使った競技のほか、脳波を使いアバターを操作するレースや義足を使った走行レース、電動車椅子を使った競技などもある。義手部門では、様々な形の大きさのモノをつかんで移動させたり、食器をトレーに載せて運んだりする課題がある。難易度に応じて点数を振り分け、その合計点を競う。
「これまでの義手では、思いのままに5本の指を動かす動作が難しかった」。メルティンMMIの伊藤寿美夫社長はこう指摘する。同社の義手は、筋肉が収縮するときに発生する微弱な電気信号「筋電」を計測・分析し、指を動かす。義手を装着した人が「こう動かしたい」と思った通りに、直感的に指が動く点が最大の特徴だ。
人が手や足を動かそうとすると、必ず脳からその動作を指令する電気信号が発せられる。その信号が腕の筋肉を流れ、筋肉は動く。従来の義手に採用していた筋電計測の技術では、電気信号が流れたか否かなどの単純な解析しかできなかったため、手を開く・閉じるかの動作しかできなかった。
メルティンMMIの義手は、10年以上、筋電義手の研究に携わってきた電通大の横井浩史教授の基礎技術を応用している。腕などにセンサーを付け、人がどのように感じたときに、どんな電気信号が脳から送られてくるかの情報を事前に1つずつ登録。パソコンにデータとして取り込んでおく。

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