だが、一般的に地方都市は若者が少なく、消費も陰りが出ていることが多い。この点もパンは嗜好品でなく主食であることで解決する。総務省の家計調査によると、1世帯当たりのパンの月間消費額は2092円とコメ(同1460円)よりも多い(2015年度)。

<b>毎日食べる主食を売るため、常連客が700~900人いれば採算が合う</b>(写真=松隈 直樹)
毎日食べる主食を売るため、常連客が700~900人いれば採算が合う(写真=松隈 直樹)

 100円均一で種類が豊富であれば、来店頻度を高めることができる。固定客をつかめば、売り上げのめども立ちやすい。滝下社長は「人口3万人の商圏であれば、居酒屋やレストランでは成り立ちにくい。パンなら700~900人ほどの常連客を確保できれば十分やっていける」と自信を見せる。

 地方都市は高齢者の割合が多いが、高齢者ほどパンを好んで食べる傾向があるという。米飯であればおかずを用意しなければならないが、パンなら単品で済む。食費にかけられる金額は多くないのが、年金生活者の実態だ。

店舗にパン職人は必要なし

 店舗名を漢字にしたのも高齢者が覚えやすくするため。高齢者にも食べやすいように食感を軟らかくしている。毎日訪れるという70代の女性も「たくさん種類があるので毎日食べても飽きない。しかも安いので、ついついたくさん買ってしまう」と笑顔で話す。

 九州地区に照準を絞ったのは人口3万人前後の都市が多いことに加え、パンの消費量が少ない地域だったからだ。総務省の家計調査によると、パンの消費量が全国で最も多いのは京都府。九州は福岡県が上位である以外は、佐賀県や宮崎県が30位以下とおおむねパンの消費量が少ない。

 「九州の人はパンを食べないのではなく、おいしいお店がこれまで少なかったから。むしろ伸びしろは大きい」と考えた滝下社長は、2015年から九州エリアに集中して出店する戦略を取った。

 100均パンを実現できたもう一つの理由は、その作り方にある。京都伊三郎製ぱんは福岡県と京都府にセントラルキッチンを置き、そこでパン職人が生地を練っている。全ての店に職人を配置すると人件費がかかるうえ、出店速度も遅くなってしまう。そこでセントラルキッチンで下準備を済ませ、店舗では焼き上げる最終工程だけとした。これならパート社員でもこなせる。

 「パンの命は生地。ラーメンに例えるとスープ。この味さえコントロールできれば味は崩れない」(滝下社長)。セントラルキッチンではくるみやレーズン、プレーンなど15~20種類の生地を毎日作る。気温や湿度によって水の分量を変えるなど職人が微妙に調整する。冷凍品を使うことなく、必要な分だけを毎日店舗へ届ける。

 同業他社にも100円でパンを売る店はある。ただ、生地に安価な冷凍品を使ったり、生地の種類が少なかったりするなど品質に課題がある。京都伊三郎製ぱんはこうした課題を解決した。

 2020年までに九州地区を中心に100店に拡大する計画で、その後は九州以外への展開も模索する。滝下社長は「ウチが出店すると人が集まり町に活気が出る。地方創生にも貢献したい」と意気込む。

まずは九州に集中出店
●京都伊三郎製ぱんの出店状況
まずは九州に集中出店<br />●京都伊三郎製ぱんの出店状況

(日経ビジネス2016年10月3日号より転載)