多様な外国人材が集結

現地を知る者に全面的に任せる
●関西ペイントの主な外国人幹部
現地を知る者に全面的に任せる<br />●関西ペイントの主な外国人幹部
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 自主独立の方針は、既に関西ペイントに恩恵をもたらしている。その代表例が、インド子会社の関西ネロラック・ペイントだ。

 もともとはスズキのインド進出にともなって設立された拠点だが、現在は建築向け塗料のビジネスも大きく成長している。同社の売上高は約710億円と、関西ペイントの海外事業の柱となった。「本社がとにかく現地の経営を尊重してくれる」。関西ネロラックのハリシュチャンドラ・メグラージ・バルーカ社長は成長の原動力をこう分析する。

 海外市場での「餅は餅屋に任せる」という方針は、ユニークな外国人材が続々と関西ペイントに集まるという効果をもたらしている。

 例えば、南アフリカ子会社の社長を務めるファリッド・マスード氏は、イスラム銀行出身の元金融マン。全社の社内コミュニケーションを担当するカルパナ・アベ氏は元心臓移植外科医で、日本IBMでの勤務経験もある。関西ネロラックのバルーカ社長は、米フォーブス誌が選んだ「インド人経営者100」に選出されている。

 関西ペイントで働く理由について、いずれも「日本企業らしからぬ自由度の高さに魅力を感じた」と口をそろえる。この5年で外国人幹部は3人から8人に増えた。多様な人材がさらに才能ある人材を呼ぶ循環が生まれている。

遅参者の戦い方 ③
技術と対話で求心力

 もちろん、有能な人材に経営を任せるだけで成果が生まれるほど経営は単純ではない。権限委譲型のマネジメントでしばしば起きる問題が、本社が現地企業を管理できなくなる事態だ。

 裁量を与えすぎるあまり、子会社が本社の指示を無視して暴走することも少なくない。遠心力と求心力のバランスの取り方は、グローバル経営における権限委譲で多くの日本企業が悩むポイントだ。

 関西ペイントは2つの要素で求心力を高めようとしている。

 1つ目は、技術の優位性を常に関西ペイントが持っておくこと。自動車、建築、工業などあらゆる塗料には共通する基盤技術がある。原料である合成樹脂の設計技術、顔料を細かく砕く分散技術、色彩の設計技術の3つだ。

 「これらの要素技術は、関西ペイントが他社よりも絶対に優れている状況を維持する」と技術部門トップの古川秀範・常務執行役員。基盤技術については関西ペイント本社がリードすることで、求心力を保っている。

 2つ目が、海外と日本のコミュニケーションの頻度を増やすこと。経営トップから、技術、生産、購買など、様々な部門ごとに海外企業と日本本社との間で交流する「グローバル・ミーティング」を設けている。各国で展開している事業やアイデアを共有し、互いのビジネスに役立てる場となっている。

 例えば、蚊を寄せ付けない塗料やしっくい技術を使った塗料がグループ会社に横断的に広がったのは、グローバル・ミーティングの成果だ。9月にロシアに開設した消費者向けの建築塗料のショールームのノウハウは、南アフリカの子会社が持っていたものをフル活用した。「日本と海外」だけでなく、「海外と海外」との技術やノウハウの交流でも成果が出始めている。

 「資本関係による完全支配がない分、対話の機会は増やす必要がある」と石野社長。コミュニケーションを絶やさず、常に相手の状況を知っておくことで、不正把握などの牽制効果も生まれる。現在は、部門や役職ごとに開催しているが、今後は機能を横断した形でのミーティングも増やす計画だ。

各国が生むアイデアを世界に展開
●関西ペイントグループ内での主な事業連携の例
南アフリカ
南アフリカ
南アフリカ子会社で蚊を寄せつけない成分を含む塗料のアイデアを発案
マレーシア、日本、インド
マレーシア、日本、インド
日本で製品化、マラリアやデング熱などに悩む東南アジア地域で販売



南アフリカ
南アフリカ
消費者向けの塗料販売のノウハウを南アフリカ子会社が保有
ロシア
ロシア
ショールーム運営のノウハウを、ロシア拠点で活用



日本
日本
しっくいの技術を活用し、ウイルスを不活性化する塗料を日本で開発
南アフリカ
南アフリカ
HIVやエボラウイルス対策としてアフリカ地域での展開を検討

海外売上高比率約6割に

 2013年の社長就任と同時に石野氏が打ち出した「レートカマー戦略」は、少しずつ実を結びつつある。

 2016年3月期の海外売上高比率は、57%。8年前の37%に比べて大幅に上昇し、日本の売上高を逆転した。自動車向け塗料に依存していた収益構造も改善され、建築・工業向け塗料の比率が高まっている。2013年以降、株価は上昇傾向が続く。

 もちろん課題もある。海外事業の成長とともに、本社機能の脆弱性が目立ってきたのだ。

 「本社の方針をグループ全社に迅速に伝える機能、グループ会社同士をつなぐ機能など、従来にない仕事が必要になってきた」と妹尾常務執行役員はその背景を説明する。グループ全体のプロデュース機能を担う部門は現在の関西ペイントにはないため、グローバル本社の設置を急いでいる。

 本社と海外拠点を結ぶ日本人社員の育成も課題だ。必要なのは、海外の実情を理解し、単に橋渡しをするだけでなく、主体的に事業を成長に導ける人材。これまで自動車向け塗料が強かった関西ペイントに、そうした強みを持つ人材は多くない。人材ニーズの変化に対応するため、今年から新卒採用を絞り、中途の即戦力人材を増やしている。

改革は進んだが、まだまだ途上
●分野別売上高
●分野別売上高
●海外売上高比率
●海外売上高比率
●株価
●株価

業界再編、3年で勢力図固まる

 海外の優秀な人材を継続的に確保するためには、世界に通用する企業ミッションの再定義も必要だ。

 海外の優秀な人材は、報酬だけでなく、会社の理念を重視する。「蚊を寄せ付けない塗料など、我々が人命にも貢献する企業であることを、より訴求していきたい」と赤木執行役員は言う。

 再編が急速に進む世界の塗料業界では、今後3年で勢力図がほぼ固まると言われている。海外事業を成長させながら、内なる課題も克服できるかどうか。関西ペイントは2018年に創業100年を迎える。「やるべきことは山ほどある」と語る石野社長にとって、次の100年を決める勝負のときが続く。

INTERVIEW
石野博社長に聞く
改革はコンセプトがすべて
(写真=村田 和聡)
(写真=村田 和聡)

 組織の意識改革には、何よりも出発点の位置付けが大切だ。私はコンセプトと呼んでいるが、打ち出し角度を間違えると、とんでもない方向に会社が向かってしまう。一度走り出すと、方向を変えるのには大変な労力が必要になる。

 2013年に社長に就任した際、会社を「ミドルクラスのレートカマー」と位置付けた。確かに、関西ペイントは自動車向け塗料ではトップクラスの企業だ。国内でも当時は最大手。けれど、世界ではまだまだ。規模もスピードも足りない。

 そんな会社が世界企業と戦うためには、まずチャレンジャー精神を持ちましょうと。挑戦者として、世界大手に挑む会社になろうと再定義した。そして、最後には世界トップグループ入りするぞと。

 不思議なことに、コンセプトが明確になると、戦略はおのずと見えてくる。例えば、自動車向けが強かった時代は、何でも自前で開発しないと気が済まない。それはそれで素晴らしい。けれど、我々はもう挑戦者なんだから、先行企業の良い技術があったらコピーすればいいじゃない。「脱・自前主義」でスピードを追求すべきだと。

 「大手のいない場所を攻める」「餅は餅屋」など、レートカマーとしての戦い方は、なるべく分かりやすい表現で社内に繰り返している。

 戦略を決めたら、社長の大切な役割は社員が活躍できる舞台をなるべく多く用意することだ。今、効果をあげているのは、様々な部門で開かれているグローバル・ミーティング。会議は基本的に日本でやる。というのも、コミュニケーションの壁が厚いのは、圧倒的に日本人だから。会議とは直接関係ない人にも参加してもらって、外国人との会議の様子を見てもらう。「なんだ、こんなものか」と思ってもらえれば、しめたものだ。

 会議を始めて3年たって、だいぶ意識も変わってきた。先日、本社で新しいスローガンを募集したら、1400人の社員から1390通集まった。社員も改革に積極的に関わってくれていると感じる。

 もちろん、課題は山積している。海外の取り扱い製品を建築用塗料だけでなく、工業用分野にも広げ、既にある自動車向け塗料と共に総合塗料メーカーとして規模拡大を目指す必要がある。アフリカや中東である程度の布石を打ったら、世界大手の主戦場である欧米にも進出する。世界トップクラスになるために、残された時間はあまり多くない。(談)

(日経ビジネス2016年10月17日号より転載)