

アフリカ南部の貧困国の一つ、ザンビア。首都ルサカ近郊に住むエマニュエル・ムタレ氏(26歳)にとって、10月は憂鬱な時期の始まりだ。
雨季のザンビアでは、多くの住宅地域で雨が降ると下水があふれ、蚊が大量に発生する。これが、蚊が媒介する感染症マラリアの温床となる。
ムタレ氏の住む地域でも、毎年必ずマラリアが大流行するという。幼い子供が感染すれば命にも関わる。2人の子供を持つムタレ氏は、不安を抱えながら毎日を過ごさなければならない。マラリアの脅威はアフリカに住む多くの人々を悩ませる社会問題だ。
今年10月、この問題を解消するためのプロジェクトが、ルサカで始動した。その名も「アンチ感染症プロジェクト」。住宅の壁に特殊な塗料を塗ることで、屋内に蚊を寄せ付けなくする。塗料は、殺虫剤などに使われるピレスロイド系化合物が含まれた特殊なもの。蚊が吸引すると神経が高ぶって錯乱状態に陥り、やがて死に至る。
壁には同時に、ウイルスを不活性化する効果を持つ特殊塗料も塗る。日本のしっくいに使われる消石灰を含んでおり、室内を無菌状態に近づける。ザンビアは、世界でもエイズウイルス(HIV)感染者の多い国として知られる。免疫力が低下したエイズ患者が住む住宅などに塗り、患者の生活環境の改善を狙う。
これらのプロジェクトを進めているのは、日本の塗料大手、関西ペイントだ。特殊塗料はいずれも同社が開発し、日本などで販売している。一般の塗料よりも3割ほど高い値段がネックとなって、これまでアフリカ地域では展開していなかった。ザンビアで調査を始め、アフリカの所得水準でも購入できる製品を開発する計画だ。
これらの製品が収益に貢献するまでには、10年はかかると見ている。それでもアフリカは、塗料業界の世界トップグループを目指す上で欠かせない市場だ。2003年に三菱商事から転身した石野博社長は「今から布石を打っておくことが重要」と力を込める。
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