山口氏は当初、ビジネスモデルとしてリクルートの常道である、「無料サービス+企業からの広告」での収益化を想定していた。だが、開発を進めるうち、「必要最低限の料金をもらう方が、より良いコンテンツを提供できる」と考えを転換。低価格とサービスの質を両立させ、ビジネスとしての成長性を高めた。そして、スタディサプリは教育業界の「台風の目」へと育った。

 業界の仕組みを壊して新市場を作ろうとしているのは、主に中小企業や個人事業主を対象にした業務支援ビジネス「Air(エア)シリーズ」でも同じだ。

 例えば小売店や飲食店を対象にしたPOS(販売時点情報管理)レジサービスの「エアレジ」。スマートフォンやタブレットにアプリをダウンロードし、専用のPOSレジがなくとも、店舗の担当者が注文の入力や会計、売り上げ分析、顧客管理もできる。13年秋のサービス開始から、導入数は30万件に迫る。

課題解決に向け事業を深掘り

 目指すのは、サービスから得られる膨大なデータを活用、顧客の業務改善や売り上げ増の課題を解決することだ。

 エアレジを導入している栃木県の居酒屋チェーンでは、リクルートの営業担当者とエンジニアが組み、メニューの注文率や売上構成比率など各種データを分析。メニューの組み合わせや接客による、客単価や再来店率への影響を導き出した。分析結果を生かしてマニュアルを作成した結果、チェーン全体の客単価は10%以上アップした。

 単発のサービスに終わらせず、連鎖的に別のサービスを結びつけて新たな価値を生む。それにより顧客に「なくてはならない」と思わせ、事業の幅と深みを増す。それがリクルートの強みだ。

 大学受験生向けにスタートしたスタディサプリは次々と対象を拡大し、個々の生徒だけでなく多くの学校にも浸透。エアレジも手軽に使えるPOSレジにとどまらず、顧客の課題解決につなげるところまで事業を深掘りした。その「しつこさ」が成功につながっている。

 創業者の故・江副浩正氏らが、前身となる「大学新聞広告社」を創業したのが1960年。今や2兆円企業になろうとするリクルートは、起業家精神をどう保とうとしているのか。次ページではその企業文化や組織の今に目を向ける。

海外の人材派遣に成長求める

 求人広告を祖業に成長を続けてきたリクルートホールディングスは近年、事業のポートフォリオを大きく変えている。現在、売り上げ規模が最も大きいのは、国内外での人材派遣事業だ。2017年3月期の全社売上高のうち、約6割が同事業による。

北米、欧州、豪州で矢つぎ早に買収を実現
●人材派遣の主な海外M&A(写真は本原常務)
北米、欧州、豪州で矢つぎ早に買収を実現<br /><small>●人材派遣の主な海外M&A(写真は本原常務)</small>
注:買収額は当時の日本円換算(写真=竹井 俊晴)

 もともと人材派遣では後発組だったが、2007年に旧スタッフサービス・ホールディングスを買収、国内首位となった。その後、16年にオランダの人材派遣大手、USGピープルを買収するなど、海外でのM&A(合併・買収)にアクセルを踏み込む。事業エリアは国内のほか、北米、欧州、オーストラリアにまたがり、20年には海外の人材派遣だけで1兆円の売上高を目指す。

 人材派遣の拡大を指揮してきたのが、社内で同事業のエキスパートとして知られる本原仁志・常務執行役員だ。主導した海外案件は10年以降に8件。長年業界に携わり、「派遣社員の人たちが働く現場を、日本で一番見てきた」と自負する一方、元来M&Aや海外事業の経験はなかった。実務や現場を知る人材が自ら試行錯誤しながら経営するのもリクルート流といえる。

 本原氏がマネジメントの肝としているのが「ユニット経営」だ。職種やエリアに基づいて10~100人規模の組織を「ユニット」として権限を委譲。事業運営や業績管理を任せる一方、情報を共有して透明性を高め、目標達成に向けて自立させる経営手法である。買収先の企業ブランドを残し、CEOらには経営の自由度を与える代わりに、取締役会は本原氏が掌握。現場のモチベーションを高めつつ、利益率の改善を中心に数値目標を厳しく管理する。

 こうした組織運営により、海外派遣事業の主要3社のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)率は5%以上と、1桁台前半が大半の業界では高い。ここまでは順調に事業を拡大してきたが、「社員一人ひとりがオーナーシップを持つ。個々の経営感覚こそリクルートの特徴だ」と語る本原氏の考えを、海外でも浸透させられるかが今後の成長を左右する。

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