実際、業界では「カニバリゼーション(共食い)」を指摘する声も多い。それでもITの進展という変化に適応して生き残るには、自社内での共食いも恐れず突き進むしかない。リクルートホールディングスの峰岸社長も「人材領域で世界ナンバーワンを目指す上で、中心はインディード」と断言する。

 新規事業が既存事業の領域を侵食するとして迷ってしまえば、ライバルに先を越されるリスクは高まる。目標のためには社内競合すら辞さない。インディードは成長に向けたリクルートのあくなき「貪欲さ」も映し出す。

 出木場氏はかつて、宿泊予約サイト「じゃらんnet」や美容室予約サイト「ホットペッパービューティー」を新規開発した。紙媒体を出版し、そこを起点に事業を展開するリクルートのビジネスモデルを大きく転換し、ネット化にシフトする流れを作ったキーマンの一人だ。紙媒体での成功体験を壊し、ネットへの移行に結びつけた。

 そんな出木場氏だからこそ、業界の変革に先行して対応すべきとの思いは強い。「採用や転職など、世の中の人材領域の仕組みは30年前から何も変わっていない。リクルートだって、もっと色々なことができたはず」。破壊的なイノベーションを起こし得る存在を、さらに大きくすることが重要だと説く。

 リクルートは長年、社内で「不の解消」と呼ぶ使命を掲げてきた。「不」とは個々の消費者や取引先の企業など、社会に存在する様々なステークホルダー(利害関係者)が抱える不安や不満のことだ。インディードのサービスによって「不」をなくすことがリクルートの成長につながると確信している。

<span class="fontBold">「スタディサプリ」はスマートフォンの普及も追い風に、小中高生の幅広い支持を獲得している</span>
「スタディサプリ」はスマートフォンの普及も追い風に、小中高生の幅広い支持を獲得している

 同じように「不」の解消を世に問うたのが、11年から展開するオンライン学習サービス「スタディサプリ」である。生徒がスマートフォンなどを使って有名進学塾や予備校の講師の授業を動画で視聴し、学習できるサービスだ。動画は見放題で、自分の学力に沿って苦手な科目を重点的に学んだり、進路選択に関する情報を探したりもできる。

「なくてはならない」存在を目指す

 通塾すれば数万円かかるところを、毎月980円(税抜き)の定額で好きなだけ授業を視聴できるという価格破壊で事業を急成長させた。高校3年生以上を主なターゲットに「受験サプリ」としてスタートしたが、その後小・中学生向けにもサービスを拡大。現在、動画の本数は1万本を超える。有料の累計年間会員数は40万人を突破した。全国で1000校以上の高校でも学習指導などの補助ツールとして導入されている。

執行役員兼 リクルートマーケティングパートナーズ社長
山口 文洋氏
<small>執行役員兼 リクルートマーケティングパートナーズ社長</small><br />山口 文洋氏
[Yamaguchi Fumihiro]
1978年生まれ。ITベンチャーなどを経て、2006年リクルート入社。「スタディサプリ」などの企画開発を担当。15年から現職
(写真=竹井 俊晴)

 「世の中を変えて、海外にも出ていける。とんでもない事業に育てられるという『妄想』が突っ走った結果」。こう語るのはスタディサプリの生みの親である山口文洋氏だ。現在はゼクシィなどを手掛けるリクルートマーケティングパートナーズ社長を務める。スタディサプリを軌道に乗せた後、15年に37歳という最年少で主要事業会社のトップと本体の執行役員に就任した。

 山口氏は、ITベンチャーなどを経て06年にリクルートに入社した。配属された進学・教育事業は当時苦戦が続き、部署内には閉塞感が漂っていた。

 転機となったのが、峰岸社長の「リクルートの事業はロマンと算盤を兼ね備えているべきだ」という言葉だ。「単なる事業の再生ではなく、子供たちに新しい学びの場を提供したい」。山口氏は、他の社員らを巻き込み、教育現場や子供たちの学習の実態を調査。サービス開発のスピードを加速させた。

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