そんな中で、コーセーは板挟みの苦しい状況になった。「上を見れば資生堂やカネボウ、下を見れば国内外の低価格商品の挟み撃ちに遭っていた」(小林社長)。2000年代の半ばに至るまで、とにかく商品を流し込み、売り上げを計上する「売り上げ至上主義」が蔓延したのも、無理はない面があった。

 だが結局、消費者に売れなければツケは不良在庫とメーカーへの返品としてのしかかり、利益を圧迫する。

 営業担当者の評価の仕方から刷新した。売り上げが高くても、返品率が高い営業担当者の評価を下げたほか、営業月報も、売り上げより返品率が目立つような形式に変えた。実質的な利益への貢献を「見える化」したのだ。社員の意識改革をさらに進めるため、荒療治に出た。

同族経営を強みに成長
●小林家の主な家系図
同族経営を強みに成長<br /><small>●小林家の主な家系図</small>
1946年の創業以来、小林家で受け継いできたコーセーの経営。同族ならではの思い切った施策を行う
注:アルビオンは、高級化粧品会社で、コーセーの子会社
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 返品された大量の商品が、結局は焼却処分される現場に、営業担当を立ち会わせたのだ。08年のことだ。

 3トントラックで流通センターに運ばれてくる、発売から1~2年の真新しい商品。それらが大きな袋にまとめられ、焼却場で焼却される様子は、メーカーの社員にとって目を覆いたくなる光景だ。「大事に育ててきた『雪肌精』などが新品のまま焼かれる。その光景は僕にとっても、営業担当にとっても衝撃だった」

 返品の弊害を説き続けたことで、状況は改善している。06年度と比べて、返品率は今では半分程度にまで抑えられているという。

 少量多品種のビジネスを余儀なくされる化粧品のビジネスモデル。安定した利益を生むためには、流通の効率化が欠かせない。16年度の売上高営業利益率をみると、資生堂が4.3%なのに対して、コーセーは14.7%と3倍以上の高水準だ。返品削減にとどまらず、「ぜい肉」がつきがちな化粧品のビジネスを筋肉質にする地道な取り組みを続けてきた成果と言える。

 「社内外にとって最も衝撃的だっただろう」と振り返るのは、取引店舗数の削減だ。

 2万3000~2万4000あった店舗を、1万9000店まで減らした。一定の売り上げは計上されていても、返品が多いなどの理由で、赤字取引の店舗が少なくなかったのだ。

 取引を残した店舗でも、一部の小規模店などは、営業担当が出向かずに一括してコールセンターで受注管理をすることで、人件費低減にも努めた。

ブランドを整理して攻める市場を明確にした
●コーセーのブランド戦略の一例
ブランドを整理して攻める市場を明確にした<br /><small>●コーセーのブランド戦略の一例</small>
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