創業家の悲願、盟主とらえる

 化粧品業界で長年、資生堂の後塵を拝してきたコーセーの存在感が急速に高まっている。16年度、コーセーの売上高は資生堂の3分の1にすぎないが、営業利益額では資生堂を抜いた。「父が生きていたら、相当喜んだでしょう」と語る小林社長。

 コーセーは、戦後間もない1946年に祖父に当たる孝三郎氏が創業。香水などを中心に製造販売を開始した。一方の資生堂の創業は、さらに70年以上遡る1872年。小林家にとっては会社の知名度でも規模でも雲の上の存在だったに違いない。

 今のコーセーの勢いを示すのは利益の拡大だけではない。年間の国内出荷額が、2位のカネボウ化粧品と拮抗する水準になったもようだ。トップの資生堂とはまだ差があるものの、業界3位が定位置だったコーセーは、明らかに新たなステージに立っている。

<span class="fontBold">4代目社長(現社長)小林 一俊</span> (写真=的野 弘路)
4代目社長(現社長)小林 一俊 (写真=的野 弘路)

 「シェアは市場での存在感そのもの。まだ伸びしろがある」と話し、売り上げ規模でも資生堂への追撃を意識しているのは間違いない。

 2016年度、コーセーの業績に大きく貢献したのは、14年に約135億円を投じて買収した米子会社のタルトだ。M&A(合併・買収)の判断においても化粧品に対する創業家の「目利き」の確かさが、奏功した格好だ。

 「全役員が反対だったが、小林社長が押し切って決めた」。当時、買収案件選定に携わっていた長濱清人常務取締役は、こう振り返る。

 タルトは1999年、ニューヨークで大学生活を送っていたモーリーン・ケリー氏が創業した自然派化粧品。マス広告に頼らず、SNS(交流サイト)などで創業者が自らを広告塔にして商品を広めた。パッケージのデザインなどが特異で、「日本人には人気が出そうにない」と役員たちは懸念したが、小林社長は「我々の感性と違うからこそいいのだ」と、ブランドの潜在力を見いだした。

 一般に、日本企業の海外買収は、金融機関から紹介されたリスト内の案件に飛びついたものの、数年後に想定した利益が上がらず苦しむケースが後を絶たない。小林社長が目にしたリストは「今ごろなぜ、こんな会社が入っているのか、というのも多かった」という。

 買収後、タルトはネット販売などの波にも乗って、周囲の想像以上に業績が伸びた。2016年度の売上高は282億円と、過去2年で3.5倍に増えた。営業利益は84億円と、コーセー全体の2割強を占めるまでになった。10年、資生堂がベアエッセンシャルという米化粧品会社を買収したものの、減損を計上して苦しんだのとは対照的だ。

感性の裏に徹底した利益志向

 表面的には創業家の「感性」がコーセーを成長に導いているように見える。だが07年に44歳の若さで就任した小林社長の経営を振り返ると、利益に対する考えが甘い組織風土の刷新に、力を注いできたことが浮き彫りになる。

 コーセーが店頭市場に株式を公開したのが1999年。東京証券取引所に上場したのが翌年で、上場企業としての歴史は浅い。一般的に、非上場時代から続く社内のしがらみを断ち切るのは容易ではないが、創業家出身で強い求心力を持つからこそ、思い切った変革に乗り出すことができた。

 就任した当時、最も問題になっていたのが商品を納入したドラッグストアからの大量の返品だった。

 かつて消費者は、街の化粧品専門店や百貨店で化粧品を手に入れていたが、90年代ごろから、急速にドラッグストアが台頭してきた。資生堂やカネボウは豊富な資金力を武器に営業攻勢をかけて、売り場の確保を急いだ。