コーセーが2016年度、営業利益額で業界の盟主である資生堂を抜いた。強さの源は創業家4代目、小林一俊社長のトップダウン経営にある。化粧品開発の「目利き」だけでなく、稼ぐための事業改革でも指導力を発揮する。
(日経ビジネス2017年9月4日号より転載)

東京・日本橋のコーセー本社。11階の役員会議室で小林一俊社長が向き合っていたのは、外尾秀人・コンシューマーブランド事業部長と、20代の女性企画担当者だ。
「本当にそんなに色の種類が必要なのか」。小林社長は、念を押すように尋ねた。女性社員は「ネイルは色が勝負です。40色程度で世界観を出すのは難しい。69色は絶対に必要」と力説した。同社が2015年2月に新たに発売したネイルブランド「NAIL HOLIC(ネイルホリック)」の企画会議での一幕だ。
企画案が型破りだったのは色数だけではない。「中毒」を意味するホリックという名称、そして若者を狙って1個300円にするという安値も業界の常識を超えていた。
2度にわたる会議で議論を尽くしたあと、小林社長は「外資や新興メーカーが押さえているネイルの市場に食い込むには、これくらいのこだわりがないと駄目だ」と決断し、ゴーサインを出した。
化粧品会社の生命線は、どれだけヒット商品を生み出して、新しい顧客をつかんでいけるかにある。4代にわたって創業家が社長を務める同族会社のコーセーでは商品仕様の細部まで創業家が全権を握り、現場担当者と直接議論して、最終判断する仕組みだ。小林社長はこう語る。
●コーセーの業績と資生堂の営業利益の比較
「入社以来31年ずっと、祖父、父、おじきと歴代社長を全部見ながら仕事をしてきた。どういう商品が売れて、どういうものが売れなかったか。そういったものの記憶と経験が積み重なって、最終的に私の感性につながっている」
社内では「三大決裁」という言葉で、商品にかける創業家の強い意思が継承されてきた。化粧品の「香料」「デザイン」「企画・宣伝」については代表権者が決裁しないと商品化できないという「おきて」であり、もちろん代表権者とは小林家を意味する。
ネイルホリックは、こうした同族会社ならではの思い切りがヒットにつながった好例だ。ドラッグストアを中心に発売したネイルホリックは、1年で500万個を販売。累計販売数は1500万個を超えた。資生堂やカネボウ化粧品など「老舗」メーカーが存在感を発揮できなかった、若者のネイル市場にくさびを打ち込んだ。
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