日産関係者は明かす。「ルノーの技術者との交流は確かにあるし、三菱自動車の技術者との交流もすでに始まっている。だが、互いの次期車に盛り込む具体的な機能や乗り味といった手の内、ましてやデザインを見せ合うようなことは絶対にしない。技術者当人は別ブランドだと意識してはいても、一目見れば、どうしても似てしまうものだからだ」

 顧客の目にはあくまで別会社として映るようにタッチポイント(顧客との接点、ブランド価値)を増やす。ゴーン氏が磨き上げてきたアライアンス戦略の醍醐味はここにある。

 ゴーン氏が合併でも買収でもない、企業成長に向けた「第3の道」と唱えるアライアンスに徹底してこだわる背景には、コスモポリタン(民族的な偏見のない国際人)としての出自がある。祖父はレバノンからブラジルに渡った移民。ゴーン氏自身、ブラジルで生まれ、レバノンやフランスで学んだ。仏タイヤ大手ミシュラン時代にはブラジルや米国で事業を束ね、日産にやってきてからも、世界各国を歩き、各国の首脳とも渡り合ってきた。そこから得たのは、異なる文化の人々が協力し合うことこそが、事業面での相乗効果を発揮できるという“信念”。多様性を重んじる経営哲学ともいえる。

次元の異なる協力関係

さまざまな顧客層にアプローチして販売台数を稼ぐ
●共通プラットホームのメリット

 ゴーン氏がアライアンスと戦略的協力関係とを明確に区別している点も見逃せない。後者の代表格は独ダイムラーだが、こちらは技術開発など特定の分野で協力する関係だ。アライアンスは、合併はせずとも1社として振る舞い、相乗効果を追求する。“仮想大手”として成長戦略を貫徹するには、次元の異なる協力関係が必要なのだ。

 無論、全てが順風満帆というわけではない。冒頭の三菱自の水島製作所周辺地域の「痛み」もその一つ。三菱自社内では、急激な変化に心身がついていかず、拒否反応を示す社員も多い。

 「ルノー・日産連合で長い時間をかけて蓄積してきた成功の仕組みを『濃度の高い注射』として一気に注入している。相当なショックが出ても無理はない」(日産の社員)。このショック療法にどこまで三菱自がついていけるかは、短期的な課題になる。

 中長期的な視点で見れば、ゴーン氏の後継者問題は避けて通れないだろう。強力なリーダーシップと素早い決断力で、連合のかじを絶妙なバランスで取ってきたゴーン氏。それだけに、不在になった瞬間に空中分解することも十分にあり得る。

 さらに言えば、18年間のアライアンスで培ってきたノウハウはあくまで従来型の産業構造に見合ったものだ。自動運転やコネクテッドカーなど、IT(情報技術)やAI(人工知能)など新しい技術をどんどん活用しなければ、これからのモビリティー社会は支えられない。自動車産業の構造が大きく変わる中で、これまでのようなアライアンスのカタチで十分なのか。

 アライアンスとして高度な協業を目指すにしろ、戦略的協力関係の相手先をたくさん抱え込むにしろ、いずれにしてもこれまで相手にしてきた自動車業界とは発想も文化も異なる人たちと手を組むケースが増えてくる。

 三菱自が加わり、3社連合へと発展させてきたゴーン氏。新たな仲間をどう迎え入れるかで、これからのアライアンスの姿が見えてくるはずだ。