迫る「キャッシュレス化」

 2000年以降、日本ではさまざまな異業種からの銀行業参入が相次いだ。その多くはインターネットを活用することで固定費を下げ、その分だけ預金金利を高くしたり、貸出金利を低く設定したりするビジネスモデルだった。しかし、これらは既存銀行のビジネスモデルと本質的には変わらない。その後、大手銀が中心となってネットサービスを充実したため、急速に同質化が進み、優位性が失われている。

 そうした中で、特異なビジネスモデルを守り抜いてきたセブン銀だが、取り巻く環境に変化の兆しが出ている。金融とIT(情報技術)を組み合わせたフィンテックの波だ。

 フィンテックには、さまざまな金融サービスが含まれる。その中でセブン銀に影響を及ぼしそうなのがキャッシュレス決済。米アップルの日本版iPhone7が非接触型ICチップ技術「フェリカ」を搭載するなど、スマートフォンをかざして決済するのが日常風景となれば、消費者がATMで現金を引き出す回数が減り、手数料を収益源とするセブン銀には少なからず影響が出る。

狙うは「外国人居住者」

 ひとまず収益源の多様化については対応策は打ち始めている。まずはこれまで手薄だった、「自行の預金者から手数料を取る」サービスだ。

 今年3月、川崎市の地下街「川崎アゼリア」内にセブン銀の有人出張所が開店した。だが、普通の銀行の店とはどこか雰囲気が違う。訪れる客層も外国人が多い。

 それもそのはず。この出張所はセブン銀が取り扱う海外送金サービスの営業に特化した店だからだ。

他行と共同でATMを設置し、主力事業の収益拡大を図る(左)。<br/>新たな収益源を確保するため、預金者向けのサービスを強化し(中)、<br/>米国・インドネシアなど海外での事業拡大を目指す(右)
他行と共同でATMを設置し、主力事業の収益拡大を図る(左)。
新たな収益源を確保するため、預金者向けのサービスを強化し(中)、
米国・インドネシアなど海外での事業拡大を目指す(右)
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 国内銀行の多くは同サービスにあまり積極的ではない。言語という大きな壁があり、かかる労力の割にリターンが見込みにくいと考えるからだ。このため一般的な日本の銀行を通じて送金すると様々な手数料が合計されて1万円近くかかったり、相手に届くまでの日数が不透明だったりして使い勝手が悪い。セブン銀はそこに目を付け、新たな収益の柱に育てようとしている。

 セブン銀は国際送金ビジネスを手掛ける米ウエスタンユニオンと提携。2011年3月から同社の代理店網を活用して割安な送金サービスを始めた。200以上の国・地域、50万以上の拠点に現金を送ることができる。手数料は送金額が1万円以内なら990円、5万円以内なら1500円などと定めた。

 実は、外国人居住者を相手にしたビジネスは侮れない潜在力を秘めている。日本には223万人(昨年末時点)が住んでおり、総務省統計などからセブン銀が試算したその市場規模は約5兆円という。海外送金を通じて外国人居住者を囲い込めれば、銀行としてこの市場を開拓できる可能性が出てくる。

 確かに多言語を理解するスタッフを有人店舗に張り付けてその都度対応していては到底、採算が合わない。しかし、外国人居住者が最もつまずく最初の口座開設手続きをサポートすると、コミュニティーなどを通じて利用者が広がりやすいという。そうなれば、海外送金では9言語に対応するATMやスマートフォンアプリなどを経由して低コストで利用件数を伸ばせる。

 2012年3月期に年間3万3000件だった送金件数は、2016年3月期に81万6000件に増えた。収益面での貢献はまだ数億円規模とみられるが「リテール金融の顧客を『日本人』ではなく、『日本に住んでいる全ての人』と想定すれば、まだ手つかずの分野は残っている」と二子石社長は強調する。

 フィンテックそのものへの対応も始まった。今年2月、セブン銀はATMを活用した新サービスの提案をフィンテック関連のベンチャー企業から公募し、現在2社と具体化に向けた検討を進めている。4月には社内にフィンテック対応の専門部署も立ち上げた。

 もっともフィンテックがセブン銀に追い風となるのか、逆風となるのかは見極めきれない。最高益更新を続けるその裏側で、セブン銀は岐路に立っている。

(日経ビジネス2016年9月26日号より転載)

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