セブンPBのノウハウ生かす

 金融界の中で独特の収益モデルを構築したセブン銀は、だからこそ他の銀行とは全く異なる点にとことんこだわる。最も重視するのは中立性だ。提携金融機関を少しでも増やすことが成長につながるため、特定の銀行のカラーが付くことを徹底的に排除する。

 提携先を増やすためATMの機能充実に腐心するのも特徴だ。その設計思想は、セブンイレブンがパンやおにぎりなどのPB(プライベートブランド)商品の開発で培ったノウハウが生かされている。「ATM自体もお客さんに提供する一つの商品と考え、協力会社と徹底的に独自性を出せるよう作り込んだ」(舟竹副社長)。

 一般的な銀行ATMの場合、各メーカーがひな形となるモデルを用意し、それを各行の要望に応じてカスタマイズする形で導入されていることが多い。一方、NECが作るセブン銀ATMは「完全な特注品」(深澤孝治・ATMソリューション部長)。日本初の12カ国語対応機能などはこうした関係から生まれた。機能を高めて1台当たりのコストがかさんでも、2万台を超える数を調達することで全体のコストを抑えることができた。

 中立性を確保してATMの機能を高める戦略の効果は上がっている。わずか66台でサービスを開始したATMは2002年3月期に3000台を超え、その後も年1000~2000台のペースで増加。2007年の成田空港など、公共交通機関などへの設置も進んだ。今年3月末時点では、全体2万2472台のうち、2656台がセブンイレブンの外にある。

 随所にコンビニの発想を取り込んだ銀行。その真骨頂は大量のATMを設置した際に、どの銀行も頭を悩ませる現金の補充をいとも簡単に解決している点だろう。

 ATMは、入金よりも預金の引き出しに使われる機会の方が圧倒的に多い。セブン銀ATMの年間利用回数は7億8000万回に上る。その8割が引き出しで、1回の平均額は3万8000円。このペースで引き出しを繰り返されたら、あっという間に現金が枯渇してしまう。

 セブン銀ATMの保守や現金の補充・回収は提携先の綜合警備保障(ALSOK)が請け負っている。しかし、同社職員がATMを訪れる回数は1台当たり月に1回程度しかない。では、誰が現金を補充しているのか。

 答えは、セブンイレブンのスタッフや買い物ついでに立ち寄る客たちだ。セブンイレブンのスタッフは、売り上げがレジにたまってくるとセブン銀の入金専用カードを取り出して同ATMに入金する。

 セブン銀がこのサービスを始める前は、深夜の時間帯は売上金をバックヤードの金庫に入れるなどして対応してきた。しかし、これは鍵があるので再び開けることが可能だった。一方、入金カードに引き出し機能はない。入れてしまえばその場で出すことは不可能になるため、防犯上の利点も大きい。

 セブンイレブンのスタッフだけでなく、タクシーの運転手や飲食店の店主など、深夜から早朝にまとまった金額をどこかに預ける必要がある業種も現金補充の担い手。「コンビニで入金できれば深夜に数少ない夜間金庫を探す手間が省ける」という顧客の意見を取り入れたにすぎないが、結果的に一石二鳥の効果をもたらしている。

レジの売り上げで現金補充の手間を省く
●売上金入金サービスの概念図
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