もう一つが輸送手段に航空便を使い、羽田空港の近くに水産物の加工場「羽田鮮魚センター」を設けたことだ。空輸され羽田に着いた水産物は、近くのセンターに運んで素早く仕分け。注文に応じて箱詰めし、出荷する。水産物の加工場はこれまで、築地など大きな卸売市場の近くに置くことが多かった。

 業界の常識を否定するこうした取り組みの数々で、スピードと鮮度の向上を実現した。

 水産物の流通網を変えようとする取り組みは、これまでも八面六臂(東京都中央区)やフーディソン(同)が手掛けてきた。だが両社とも、築地など中央市場を核にした既存の流通網を生かし、飲食店が鮮魚を調達するのをIT(情報技術)の力で支援する事業が中心だ。CSN地方創生ネットワークのように、産地の漁港に特化し、直接取引する企業は全国でも珍しい。

 羽田市場では、4~6種類、総重量4~8kg程度の鮮魚を詰めた「超速鮮魚ボックス」を1万円(税抜き)で販売する。トレーサビリティーが確保されていることも評価され、東急ストアでは現在、都内に展開する「プレッセ」の全4店で導入。高島屋、総合スーパーの平和堂、居酒屋チェーンのチムニーや大庄など取引先は都心以外にも広がる。

 2015年9月末にサービスを始めてから1年足らずで、出荷店舗数は延べ3000店を超えるまでになった。超速鮮魚ボックスは、築地市場の仲卸も買い求めるという。

取引先の拡大が進む
●鮮魚の出荷店舗数
注:月末時点、延べ数

 CSN地方創生ネットワークは、野本社長が2014年に設立した。実家は業務用の食品問屋で野本社長も経営に参画したが、利益率が低く経営が安定しなかったことに疑問を感じ、食品の流通構造を変えたいと思うようになった。グルメ回転すしの銚子丸、居酒屋チェーンのエー・ピーカンパニー副社長などを経て鮮魚への思いを強めていった。

 エー・ピーカンパニー在籍時、「朝どれ魚を最も高い値で買うのは都心部の消費者。空港を活用すれば成立するビジネスモデルだ」とひらめき、構想を温めて起業につなげた。

国内漁業振興にもつなげる

 野本社長は超速鮮魚の取り組みを通じて国内漁業を振興したいと考えている。社名に「地方創生」という言葉を入れたのはそのためだ。

 有言実行で仕組みも作った。CSN地方創生ネットワークは、取引先の漁師に水揚げ後、血抜きなどの下処理までしてもらう。同社が求める加工をしてもらう代わりに、地方の卸会社より平均1割以上は高く買い取っている。これにより漁業者の手取り収入の増加につながるという。

 「海外で水産業といえば高収入で憧れの業種。日本の水産業が一人負けになっている現状を変えたい」(野本社長)。仕入れ先の漁師は、北海道から九州まで現在300軒。扱う水産物も300種類と拡大を続けている。

 今後は取引先をさらに開拓し、売り上げの増加を目指す。その柱が輸出だ。現在は米国のほか、ベトナム、マレーシア、タイなどアジア各国で販売する。この市場をさらに広げる考えだ。羽田空港では国際線の拡充が進み、輸送時間の短縮も実現できそうと見る。

 地方の知られざる鮮魚が、アジアをはじめ外国人の舌を魅了する。輸出の取り組みが広がれば海外での日本食ブームが一段と加速し、政府が掲げる農林水産物の輸出拡大にも大きく貢献する存在になるだろう。

(日経ビジネス2016年9月26日号より転載)