ウコンの主成分「クルクミン」を使った機能性素材「セラクルミン」を国内外の食品メーカーなどに供給。第一線の大学研究者と連携し、臨床試験などでも成果を上げている。
特殊な加工技術が武器
橋本正社長が日本コカ・コーラ時代などに培った専門の知見や技術を生かして新製品の開発にも積極的に取り組む(写真=陶山 勉)
「もっと健康で快適な日常を送りたい」「健康診断の結果で憂鬱になる」──。こうした悩みに応えようと、様々な効果をうたう食品やサプリメントが登場している。特定保健用食品(トクホ)に加え、2015年4月からは機能性表示食品の制度も始まった。製品の開発競争は激しさを増している。
こうしたなか、国内外の食品メーカーなどが注目する素材がある。バイオベンチャーのセラバリューズ(東京都千代田区)が手掛ける機能性素材の独自製品「セラクルミン」だ。
ウコン主成分の弱点を克服
セラクルミンの原料は、ウコンの主成分でポリフェノールの一種である「クルクミン」。高い抗炎症作用や抗酸化作用を持ち、肝機能を高める効果があるとされる。健康食品や飲料に配合されることも多く、ハウスウェルネスフーズのヒット商品「ウコンの力」にも含まれている。
健康の維持増進やがんの抑制効果などに関する研究が盛んで、海外ではクルクミンを使った医薬品の開発を進める企業や研究機関も多い。ただ、クルクミンは体内に吸収される割合が極めて低いほか、熱に弱く劣化しやすいという課題があった。
セラクルミン(写真右)は水溶性が高く通常のクルクミン(左)に比べて約27倍の吸収率がある(写真=陶山 勉)
この弱点を大幅に改善し、セラクルミンを生み出したのが2007年設立のセラバリューズだ。特許を取得した製法で吸収率を約27倍に高め、耐熱性や耐光性を大きく向上させることに成功。2008年からサプリメントや食品メーカーなどに本格供給を開始した。
セラクルミンの特徴は粒子の細かさにある。クルクミンの粉末を独自の粉砕技術で数百分の一、大きさにして直径300ナノメートル(ナノは10億分の1)まで砕いている。砕いた粒が凝集してまとまるのを防ぐ表面処理を施すことで、微細粒子のまま扱えるようにした。これにより、通常のクルクミンより格段に高い吸収性を実現した。
創業した橋本正社長は京都大学で量子化学を学び、分析装置大手の米ウォーターズなど外資系企業に勤務。その後、大塚製薬に転じて医薬品や健康関連商品の事業に携わり、日本コカ・コーラに移ってR&D(研究開発)を統括するグループ会社のトップも務めた。
「自分の研究を健康に役立つ分野で応用できないか」。大学時代からの思いを実行しようと決意したのは日本コカ時代。健康寿命を延ばせる安全な素材を探し出し、ビジネスとして育てようと、退社後に起業に踏み切った。
役立ったのはビジネスマンとして培った人脈と技術だ。抗加齢医学研究の第一人者として知られる大阪大学大学院の森下竜一教授らから提案を受け、クルクミンに着目。その有効性の一方で活用には高いハードルがあることを知り、研究に乗り出した。
当初は試行錯誤が続いた。クルクミンを界面活性剤などに溶かした溶解液を数十種類試作したものの、「溶けにくい、粘度が高く投与しにくいなどの課題がありいずれも失敗した」(橋本社長)。温度を上げて流動性を高めたタイプなども試したが、実験用のラットがやけどをするなどうまくいかなかった。
売上高の8割が海外
状況を打開したのが前職での知見だ。日本コカ時代に研究していた素材の微粉砕技術や物質を吸収されやすく加工する製剤化技術を活用することで、粉末状のまま水などに溶けやすく、安定した状態に保てることを発見。改良を続け、吸収性や耐久性を高めていった。2007年9月の研究開始から半年程度で実用化に成功した。
製品化の知らせは大学の研究者らに驚きをもって迎えられ、共同研究の誘いが次々に入るようになった。京都大学や秋田大学とはすい臓がん・胆道がん、慶応義塾大学病院とは悪液質。大学や医療機関との臨床試験を重ね、完了した試験は20、現在進行中の試験は17に上る。
徳島大学などとは大腸ポリープからのがん化予防に関して国内最大規模の試験を実施中で、米国最大のがん病院群であるCTCAとも共同研究するなど、その広がりは国内にとどまらない。
クルクミンの新たな有効性も期待されている。がんやメタボリックシンドローム、動脈硬化など多くの疾患の重症化をもたらす「慢性炎症」を抑制する効果についての解明も進んでいる。橋本社長は「慢性炎症を基盤とした疾病への対策に、セラクルミンが大きな役割を果たせるようになる」と期待する。
大学教授らが学会や学術雑誌で研究成果を発表することで、企業からも信頼を獲得。特に、サプリメント大国である米国では「提供する企業の規模にかかわらず、安全性や有効性がある素材を積極的に導入しようという意識が強い」(橋本社長)。現在では売上高の8割を海外が占め、欧州への進出も狙う。
海外を中心に需要は拡大している
●セラクルミンの年間出荷量
次に狙うのは、素材の供給にとどまらない新たなビジネスモデルの確立だ。米国では合弁会社を通じてセラクルミンを配合した飲料などを展開しているが、今年7月からは国内でも独自のサプリメント「肝臓の健康にセラクルミン」(60粒で税込み9980円)の市販を始めた。この商品は、国内で初めて肝臓への効果に関して消費者庁から機能性表示食品の承認を受けている。
現在、セラクルミンを改良して吸収率を現行より2~3倍高めた新製品を開発中。「社会的課題の解決を通じてビジネスを拡大したい」と意気込む橋本社長は、これからも健康分野での「素材革命」を目指す。
(日経ビジネス2016年9月19日号より転載)
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