オイシックスは篠崎氏のようなパートナー農家を1200人抱える。ネットという販路の存在すら知らない農家に対し、創業間もないころからバイヤーが頭を下げ続けてきた積み重ねが、これだけの規模の調達先ネットワークの構築につながった。

 そこに10月、大地を守る会の契約農家1500人が加わる。「経営統合で供給元を確保しやすくなれば、(成長への)潜在的なボトルネックを解消できる可能性が高まる」。ドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストは指摘する。

INTERVIEW
統合新会社の高島社長・藤田会長に聞く
ニッチな有機野菜、マスに育てる

 オイシックスドット大地の高島宏平社長と、会長に就任予定の藤田和芳・大地を守る会社長に話を聞いた。

――経営統合のきっかけは。

高島氏(以下、高島):藤田さんとは会社の設立直後から「どこから手をつければいいのでしょうか」と教えを請うような関係。毎年1?2回は食事を共にし、その場でメモ帳を取り出して学びを得てきた。有機野菜はまだニッチな存在。両社が競い合うより手を取り合って市場を広げるべきだろう。2016年夏、漠然と「一緒になりますか」という話になり、10月に具体的に検討を始めた。

藤田氏(以下、藤田):私は岩手県の農村出身ということもあり、日本の第1次産業をもっと強くしたいという思いで大地を守る会をやってきた。だが設立から40年が経過しても、日本の農業を強靭にできたとはいえない。なんとかもう一歩、有機野菜を一般に広げることはできないか。そう考えたとき、そばにいたのが高島さんだった。オイシックスは我々がなかなか追いつけないIT(情報技術)を持つ。一方で生産者とのネットワークだったら我々のほうが一歩先んじている。両社は補完しあえる。

藤田会長(左)と高島社 長は26歳差。親子のように協力しあう考えだ(写真=的野 弘路)

――有機野菜を誰でも食べられるようにする、という信念がある。

高島:農家が自分で選んで食べている有機野菜を、消費者の限られた層しか食べられない現状は正常といえない。「マス」の定義を明確にしたことはないが、売上高1000億円あたりが一つのスタート地点だとは感じている。一定の規模がないと、選択肢として社会に気づいてもらえないからだ。

藤田:有機野菜を作れば農家に経済的な余裕ができ、後継者も見つけやすくなる。ただ従来型の栽培から有機栽培へと転換するには、そのあいだの収入を誰が保証するかなど課題も多い。農家同士の交流会など転換を支援する活動もしたい。

――米アマゾンのホールフーズ買収について、高島社長は「そうか、アマゾンはオイシックスになりたかったんだな」とFacebookに書き込んでいた。どういう意味か。

高島:ビビりました。ネットの巨人と有機野菜の小売りの巨人が一緒になる。いずれも本当に尊敬している会社で、これまでも勉強させてもらってきた。そんな世界最高の会社といずれ「ガチ」で戦えることになるとすれば、企業家冥利につきると思った。

――脅威ではないのか。

高島:脅威に思わない人なんていないだろう。だが僕らも当初苦労したように(有機野菜の販売は)生産者とのネットワークがない会社がいきなり参入して、すぐに成功するような業界ではない。もしアマゾンが本気で有機野菜で日本市場に参入するのなら、我々を買収するのが一番てっとり早いのではないか。

――買収を提案されたら受けるのか。

高島:上場会社である以上、常に株主価値が上がる選択肢をとらざるを得ない。だがオイシックスも大地を守る会も長年にわたって生産者と信頼関係を築いてきた。我々が自分らで経営したほうがうまくいくと信じている。

 オイシックスと大地を守る会は主力事業こそ同じ「有機野菜の宅配」だが、起業の軌跡は異なる。オイシックスが「有機野菜をいかに簡単に買えるようにするか」という消費者視点でサイトの利便性を磨いてきたのに対し、大地を守る会は「おいしい有機野菜をつくる農家をいかに守り、育てていくか」という生産者の視点を重視してきた。

 両社には事業モデルにも補完関係が多くある。オイシックスの会員層が30代中心なのに対し、大地を守る会は40?60代が多い。オイシックスはネット販売、大地を守る会はカタログ販売を得意とする。オイシックスはヤマト運輸の宅急便を利用してきたが、大地を守る会は自前の宅配インフラを持つ。

 高島社長は「これまでは生産者のネットワーク構築が足りず、売り上げ増大を諦めることもあった」と認める。統合により供給能力が高まれば、有機野菜の調達が安定する。物流網の統合や間接部門のコストを削れば、野菜の売価を下げることも可能になるだろう。

 大地を守る会の藤田和芳社長は統合会社では会長に就き、高島社長とのツートップ体制となる。年の差26歳、頼れる「お父さん」ができた。ビジネスで社会を変える──。かつては青臭くも聞こえた高島社長の言葉が、いま、ぐっと説得力を増している。