チキン事件は、このピープルビジネスに大きな打撃を与えた。人事本部の日比谷勉・採用チームリーダーは「業績回復が見込めない中で、15年春はクルーの採用を前年に比べ1万人程度、控えざるを得なかった」と話す。

 店舗の売り上げが減り勤務時間は削減され、十分な収入が得られず辞めるクルーも少なくなかった。学校の先生や家族から「マクドナルドでバイトするのは辞めた方がいい」と促される例もあった。都内のある店舗関係者は「経験を積んだクルーの多くが店舗を去り、オペレーションは混乱した」と振り返る。復活には、クルーの質を再強化することが重要だった。

スマホで顧客の声を集める
●アプリ「KODO」の画面
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商品や接客に関するアンケートアプリ「KODO」。アンケートに答えるとクーポンがもらえる仕組みだ

 そこで活用したのが、15年4月に導入した「KODO(コド)」という仕組みだ。スマホのアプリに、店舗ごとに商品や接客などの評価を顧客に直接入力してもらうものである。「ゴミが落ちていた」「注文から受け取りまで時間がかかった」「ポテトがさめていた」といった率直な評価を、多くの店長がクルーたちと共有し、意識向上に役立てた。実に、KODOに集まった回答数はこれまでに600万件を超えている。

 もちろん、顧客の声を聞いたところで、全てのクルーが接客を改善できるわけではない。新人クルーが増え、人手不足で外国人の採用も増える中で、誰でも的確に仕事をこなせる仕組み作りが欠かせない。

 そこで導入を進めているのが、注文と商品の受け取り場所を分ける「デュアルポイントサービス」と呼ぶ新型カウンターだ。クルーにとっては、注文対応と商品を渡す作業が分離されたことで、煩雑さが軽減。注文番号が液晶ディスプレーに表示されるため、顧客にも注文が処理されているかどうかを不安に思うストレスがかからない。

 16年から本格的に導入を開始して現在、931店が導入。混雑時でも注文を効率良く処理できるようになったことで、売り上げが増える効果もある。ある店舗オーナーは、「ピーク時に10%売り上げが増えた」と話す。

 さらに、作業マニュアルも改善した。従来は複数の小冊子に分かれていたが、今年、1冊に統合。レタスの載せ方などを細かく紹介できるように写真点数を増やしたほか、作業ごとに動画も用意した。オペレーション開発部の小泉雅彦統括マネージャーは「商品ラップの形状や置き場、スタッフの動線など細かい改善を日々、続けている」と話す。

「環境に合わせたFC体制を再構築することが急務だった」と語る下平篤雄副社長(写真=竹井 俊晴)
<b>「環境に合わせたFC体制を再構築することが急務だった」と語る下平篤雄副社長</b>(写真=竹井 俊晴)
アルバイト店員に対するマニュアルに定評のあるマクドナルド。さらにマニュアルを分かりやすくするため動画を取り入れた。動画は100本以上がある
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 こうした3つの取り組みを着実に実行してきたことで、マクドナルドはV字回復しつつある。今後は、既に計画していた店舗改装を前倒しするほか、来年からは新規出店を開始し、再び成長を目指す。一時は日本市場を見限った米本社も、最近では「日本は成長のための適切な計画を持っている」と評価、株式の売却計画を凍結している。

 カサノバ社長は「当然、まだのびしろはある」と強調する。例えば、宅配と夕食需要だ。宅配では今年6月、米ウーバーテクノロジーズのフード宅配サービス「ウーバーイーツ」を都内33店で導入した。夕食需要では、先に紹介した東海地区で展開している「夜マック」などの検証を進めている。

 だが、こうした分野は、昼食に強いマクドナルドにとって未知の分野だ。しかも、既に多くの外食企業や中食に強いコンビニエンスストアなどの競合がひしめいている。飲食業に詳しい小川孔輔・法政大学経営大学院教授は「マクドナルドがどこまで食い込んでいけるのか疑問だ」と厳しい見方を示す。

 少子高齢化が進む中で、新たな需要をどのように掘り起こすのか。完全復活と言えるのは、さらなる成長軌道に乗れてこそだ。