「下請け」にはさせない

 「従来スタートアップと大企業が協業すると、スタートアップは下請けのような扱いを受けてきた」とCreww代表の伊地知天氏は指摘する。そうならないように、自らも起業して間もないCrewwはスタートアップの立場に寄り添うことで、大企業が独り善がりにならないような工夫を重ねる。

 今春、crewwコラボを利用した富士通。アイデア募集を4月末に始める直前、その要項を説明するウェブサイトの作成に1カ月を費やした。富士通デジタルマーケティング事業部の田崎裕二氏は「初めは消費者の嗜好のビッグデータ分析など、富士通の技術を前面に打ち出して募集をかけるつもりだった」と振り返る。

 ただ、これは技術ありきの大企業的な発想と言える。Crewwは「それでは間口が狭くなる。どんな技術があるかより、どんな未来を実現したいかを示した方がいい」と助言、富士通に修正を提案した。その結果、募集要項ページの見出しはより幅広いスタートアップが興味を持てる「価値は『つながり』から生まれる」に落ち着いた。田崎氏は「最終的に50~60社の応募があったが、Crewwの助言がなければもっと少なかっただろう」と話す。

 プレゼン大会にも仕掛けがある。大企業の経営幹部に審査員として出席してもらい、スタートアップ側が一方的に発表するのではなく、大企業の担当者も上司にアピールするのだ。大企業の幹部にとっては、見ず知らずのスタートアップに売り込まれるより、自分の部下に「我が社の経営計画の実現に向けて、こんな新規事業が必要」と訴えられた方が実現性が高まるからだ。

 Crewwの2016年7月期の売上高は約2億円(本誌推定)。crewwコラボの実施件数も右肩上がりで、今年は昨年の2倍を超える38件を見込む。登録スタートアップは2200社を超えた。実績が実績を呼ぶ好循環に入った。

大企業からの注目度が高まっている
●「crewwコラボ」の実施件数
大企業からの注目度が高まっている<br />●「crewwコラボ」の実施件数

起業のエコシステム醸成

 伊地知代表の起業の原点は米国にある。1999年、高校2年のときに交換留学で渡米。そのまま現地の大学に進んだ。21歳でウェブ関連会社を立ち上げ、大手テレビ局から仕事を任されるなど事業は順調だった。そのまま米国で起業家としての人生を歩むことも考えた。

 転機となったのが2011年の東日本大震災だ。ボランティアで宮城県塩釜市の桂島を訪れた際、津波で全てを失った島の様子に言葉を失った。住民から聞いた「海産物も農産物も復旧は難しい」という現実。「何か新しい産業が必要だ」──。胸にはいつしか使命感を抱いていた。

 ただ、よく考えてみると新しい産業が必要なのは被災地だけではない。少子高齢化など日本は無数の問題を抱えているのに、この国はその解決の担い手となるスタートアップを生むエコシステムが弱い。起業家の一人として考え抜いた末にたどり着いたのが、大企業とスタートアップの橋渡しという現在の事業だった。

 留学時代の恩師などに思いをぶつけるうち、共感した投資家や大手企業の幹部経験者がアドバイザーとして集まった。2013年に日本テレビ放送網から、2015年にはオリックスからの出資も受けた。設立から4年、Crewwが大企業につないだ起業家たちの希望に満ちた目を見るたびに、伊地知代表は手応えを感じている。

(日経ビジネス2016年9月5日号より転載)