自動車分野で生きる総合力
ガラスアンテナの例が示すように、「ガラス、電子、化学と各分野で積み重ねてきた技術と顧客網を総合的に生かせる分野でもある」(島村社長)。モロッコで欧州向けの車載ガラスの生産拠点新設を決めるなど、戦略3分野の中でもモビリティー事業の動きは速い。
次世代車に向けて旭硝子が狙うのはガラスアンテナだけではない。例えば、生産準備中の新たな防曇ガラス。電気自動車はエンジンの廃熱を空調に利用できないため、エアコンの消費電力を下げることが燃費向上の課題になる。冬場にガラスの曇りを防ぐためには乾燥した外気を車内に引き込むのが効果的だが、空調効率を下げてしまう。
新開発した防曇ガラスは、冷蔵・冷凍ショーケースのガラス「ウィンドアEシリーズ」を車載用に改良した。ウィンドアは表面に水滴を吸収する特殊なフィルムが貼り付けてある。ただし、フィルムは経年劣化で変色しやすいため、自動車の保安基準が要求する可視光の透過率を満たさなくなる。このため、直接ガラスにコーティングして劣化を抑える加工法を開発した。
さらに今後の発展分野として期待をかけるのが、情報表示の技術だ。
旭硝子はガラスメーカーの中で唯一、速度などの走行情報をフロントガラスに表示するHUD(ヘッドアップディスプレー)の製造も手掛ける。そのHUDは今後、大型化が予想される。
昨年11月、国連の自動車基準調和世界フォーラムがバックミラーとサイドミラーをカメラの映像で代用することを認める方針を示した。独部品メーカー、コンチネンタルのミラーレス試作車はインパネ(計器板)のモニターで映像を確認するが、これまでの運転時の感覚に近づけるには、HUDの表示領域を広げてフロントガラスの上部や左右に映像を投映するのが理想的だ。
フロントガラスは表面と裏面で焦点が異なるため、HUDではプロジェクターから投映した像が二重化しないようにガラスの厚みを変化させる加工が必要になる。HUDが大型化すると、加工精度の要求水準が高くなる。旭硝子にとっては「自社の高精度な加工技術のニーズが高まることになる」(技術本部長を務める平井良典取締役)。
一本足打法脱却できるか
2011年にスマートフォン向けに開発したカバーガラス「ドラゴントレイル」も3年前からインパネのカバーガラスとして売り込んでおり、既に約30車種に採用されている。「電子カンパニーの開発した商品をガラスカンパニーの顧客に売り込むという分野横断の総合力が生きた好例だ」(島村社長)。
平井取締役は「複雑化する情報表示をドライバーが分かりやすく処理できるよう、インパネは今後、タッチパネル化していく。需要が増えていくのは間違いない」と自信をのぞかせる。
今年4月には山形県にあるドラゴントレイルの生産工場を増強。年間生産能力を従来の2倍の400万~500万枚にした。インパネの曲面に合わせて3次元加工できる新製品も開発中だ。
こうした情報を取得する車載カメラにも旭硝子の光学技術が生きる。同社は一眼レフ向けの色補正フィルターガラスで世界トップシェアを誇る。「自動車メーカーと共同で、自動運転車向けのチューニングを進めている」(平井取締役)という。
過去の業績を教訓にすれば、自動車事業の一本足打法でいくわけにはいかない。大型の設備が必要になる事業のため、経営目標の一つに掲げるROE(自己資本利益率)の向上にもつながりにくい。市場の大きい次世代車に軸足を置きつつ、エレクトロニクスとライフサイエンスの成長の具体策も早期に示していく必要がある。
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