稼ぎ頭だった液晶事業の不振など課題に直面している旭硝子。次世代車向け製品を次の成長ドライバーと位置付けた。電波、光、熱、音...。あらゆる波を制御する高機能ガラスで反転攻勢をかける。

次世代車向けの主力商品となるガラスアンテナ。受信感度を評価する電波暗室に長年のノウハウが詰め込まれている。今回、報道機関に初めて公表した。(写真=早川 俊昭)

 自動車向けガラスを生産する旭硝子愛知工場(愛知県武豊町)の一角にはガラス工場には似つかわしくない不思議な空間がある。自動車のリア、フロントのガラスに銀などの回路をプリントした「ガラスアンテナ」の受信感度を評価する電波暗室だ。

 壁際には試験車を置く回転台。どんな角度でも誤差なくテレビやラジオ、GPS(全地球測位システム)などの電波が届くか試験する。外壁には導電性の素材を使い、外部電波から隔離。内壁の白いパネルの裏側には、カーボンを混ぜた発泡スチロール製の無数の突起が貼り付けてある。内部で電波の反射による干渉を防ぐための電波吸収体だ。旭硝子の独自のノウハウが詰め込まれているのが部屋の大きさや複雑な形状。これも反射電波が打ち消し合って車に届かないよう設計されている。

新型の防曇ガラス(上)や遮熱ガラス(下)も自動車メーカーからの引き合いが強い(写真=早川 俊昭)

 ガラスアンテナの欧米での一般的な製造工程は、自動車メーカーが電波暗室を使って回路を設計し、アンテナの専門メーカーが回路をプリントする。

 しかしガラスの加工の許容誤差は自動車部品の中では比較的大きく、受信感度も変わりやすい。「実際に取り付けるガラスと同じものを使って設計しないと、期待通りの受信感度は得られないこともある。回路の再設計が必要になるリスクがある」。旭硝子オートモーティブ事業本部の宮川博行・戦略マーケティンググループリーダーはそう指摘する。自前の電波暗室を使って設計から回路のプリントまでを手掛けられるのが、旭硝子の強みの一つだ。

 もう一つの強みは歴史だ。約40年前、米ゼネラル・モーターズが屋根やフェンダーに立つアンテナを取り去り、ガラスアンテナを採用した車を発表。これをきっかけにアンテナが発する風切り音やデザインへの不満があった国内メーカーから開発依頼が舞い込んだ。

 旭硝子は社内のアマチュア無線愛好家をかき集めてプロジェクトチームを結成。そこから徐々にノウハウを蓄積してきた。回路の太さや形状の自由度が高いガラスアンテナの最適設計は、自動化が難しい。「40年のノウハウを継承したアンテナ専門設計士の勘と経験が強みだ」(宮川氏)。

 次世代車開発で起きる“波革命”は旭硝子に有利に働いている。

 一つはコネクテッドカー(つながる車)の実用化。自動運転技術の実現のため、通信アンテナの種類はラジオなどだけでなく、車同士の通信、交通インフラとの通信向けへと広がりつつある。当然、それぞれの電波の干渉が出ない回路設計が必要になる。

 もう一つは車の環境性能の向上。年々厳しくなる燃費基準に対応するため、ガラスを表面加工したり、合わせガラスを使ったりして、断熱機能などを付加しなければならなくなっている。