そのため2次診療のニーズは大きいと考えたものの、開業当初は「いずれ1次診療に乗りだすのでは」という懸念を抱かれ、周辺の動物病院による反対運動が起きたこともある。1次診療病院の大きな収入源である予防接種に手を出さないなど「2次診療に特化する方針を貫いたことで、信頼を獲得できた」(平尾社長)。現在では、提携病院の数は3000を上回っている。

 開業のタイミングも良かった。総務省の家計調査によると、会社を設立した2005年には1世帯当たりの動物病院代の年間支出額は4566円だったが、2015年は6322円となっている。

 また、ペットフード協会によると、2010年に13.87歳だった犬の平均寿命は2015年に14.85歳に、猫も14.36歳から15.75歳へと延びた。長生きすれば犬や猫でもがんや心臓病、糖尿病といった病気のリスクは高まる。愛犬・愛猫にも高度な医療を受けさせたいという需要も膨らんできた。

獣医師採用が成長の鍵

 そんな日本動物高度医療センターにも不安要素が2つある。一つは数%といわれるペット保険の加入率の低さだ。実質的な自由診療である動物の治療費は高額になりがちで、保険に未加入の場合、手術後の入院が長引くと100万円を超えることもある。加入率が上がってこないと潜在顧客は増えない。

 もう一つは人材。現状、抱える獣医師の数は非常勤を含めて約70人だ。年中無休の病院を増やすにはさらなる人材確保が欠かせない。獣医師国家試験の合格者数は例年1000人程度で推移している。このうち犬や猫など小動物を希望するのはおよそ半分だ。同社への就職が公務員や研究職など他の進路より魅力的であることを示さなければならない。

 そのため、教育には特に力を入れてきた。入社後、2年かけて複数の診療科で診療から手術まで体系的に学べるプログラムを整えている。獣医師の教育機関としてのお墨付きとなる「小動物臨床研修診療施設」の指定を民間では初めて受けている。「近年は若い人たちの間で独立開業を好まない傾向がある」と平尾社長。上場によって採用面にも好影響が出てきた。

 少子高齢化が続けば、1兆円超と目される国内のペット関連市場もいずれ縮小を余儀なくされる。同社は海外の富裕層向け事業の可能性を模索したこともあったが、検疫などの面からすぐに実現するのは困難だった。当面は、2次診療という本業周辺で新規ビジネスの種を探していく方針だ。

昨年開発した見守りシステム「クリアボ」を使えば、獣医師は預かっているペットの状態を確認できる

 その一環として、昨年11月に動物病院向けの見守りシステム「クリアボ」を発売。スマートフォンやタブレットで動物の動画や心拍・呼吸数などを確認できる仕組みだ。多忙を極める全国の獣医師をIT(情報技術)でサポートしていく。

 上場前はペット愛好家など個人株主の比率が高くなると想定したものの、事業の独自性や将来性に着目する機関投資家も多いという。今後も都市部の開業を進める計画を掲げるが、「医療の水準を保っていくことが大前提」(平尾社長)。成長のペースと医療の質のバランスをどう取るかがこれからの課題となりそうだ。

(日経ビジネス2016年8月29日号より転載)