「安心、安全、健康のテーマパーク作り」を掲げて損保の殻を破壊する。進出した介護では既に国内2番手に。デジタル技術でさらに各事業の革新を図る。日米のベンチャーを自ら発掘し、その新技術を再成長の原動力にする。

(日経ビジネス2017年8月21日号より転載)

<b>老人ホームの入居者に施設の出入りを支援するロボット「ユニボ」</b>
老人ホームの入居者に施設の出入りを支援するロボット「ユニボ」

 「あ、開いた」

 今年6月29日、東京都足立区の住宅街にある介護付き有料老人ホーム「そんぽの家 竹ノ塚サンフラワー」。建物の入り口付近で小さな歓声が上がった。入居者たちが顔をほころばせたのは、この日小型ロボット「ユニボ」がやってきたためだ。高さ30cmほどのこのロボットの「仕事」はドアの開閉。入居者や職員が「ドアを開けて」と話しかけると、ドアに信号を送る。日本のベンチャー企業が開発したユニボは、顔認証の技術を持ち、登録済みの入居者の顔だけを認識して反応する。

 この老人ホームを運営するのは、損害保険大手、SOMPOホールディングスだ。SOMPOは2015年12月、居酒屋大手、ワタミから介護事業を、そして16年3月には介護大手のメッセージを買収してこの分野に本格進出。今や有料老人ホームを計298、サービス付き高齢者住宅を計128施設展開する。国内ではニチイ学館に次ぐ2番手の大手事業者となっている。

 保険会社が本格的に実業に取り組むこと自体珍しいが、SOMPOが今、取りかかっている事業革新は同社の構造自体を大きく変えるものだ。

 「安心、安全、健康のテーマパークを目指す」。SOMPOホールディングスの桜田謙悟グループCEO(最高経営責任者) 社長は、ここ数年こう言い続けてきた。

 背景にあるのは、人口減と少子化の中で起きつつある保険市場の成熟化と技術革新がもたらす市場構造の激変だ。

 本業の損保市場(正味収入保険料)は見かけ上、11年3月期を底に緩やかに回復しているが、実態は自動車保険の料率引き上げなどに支えられたもの。近い将来、縮小に転じる可能性は否定できない。子会社が参入している生保市場も、中核の1つである死亡保険などの保有契約高(個人)でみると、1997年3月期のピークに比べ、昨年度は約40%も減っている。

介護・海外事業を成長の軸に
●事業ポートフォリオの計画
介護・海外事業を成長の軸に<br /><b>●事業ポートフォリオの計画</b>
注: 修正連結利益とは自然災害による保険金支払いの平準化といった調 整を行った数値。小数点以下四捨五入のため、合計が100%を超える
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 その一方で「顧客は万一の時の保険金だけを求めるのではなく、安全で安心、健康な生活に役立つサービスや機能の方をより重視するようになってきた」(桜田社長)という変化も本格化してきた。

 そこで狙ったのが、保険の枠にとらわれない「安心、安全、健康」の事業拡大。大きな柱が介護事業だ。ただし、単なる買収による既存事業の拡大にはとどまらない。キーワードはデジタル技術の活用である。

 例えば、冒頭のユニボは、介護付き有料老人ホームの入居者の外出を職員がチェックするのではなく、ロボットが対話しながらドアを開ける手助けをする。顔認証技術を持つので誰がいつ外出したかも把握できる。これで職員の負担が軽くなり、仕事の生産性が上がり、入居者はロボットとのやりとりを楽しめる。

シリコンバレーにデジタルラボ

 ユニボはまだ実証段階だが、実際に導入を始めた技術もある。

 要介護度の高い高齢者と老人ホームなど施設にとっての「悩み」は排泄。いつ排泄が起きるのかを高齢者が自覚できなかったり、分かっても対処が間に合わなかったりすることがある。施設職員はその分、頻繁に対応する必要がある。事業としては労働集約的になりやすく、職員の負担も大きい。

<b>介護施設の業務効率化へ排尿センサー(写真右)を導入。ぼうこう内の尿量を把握し、入居者が尿意を感じるタイミングをタブレットに知らせる</b>
介護施設の業務効率化へ排尿センサー(写真右)を導入。ぼうこう内の尿量を把握し、入居者が尿意を感じるタイミングをタブレットに知らせる

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