全国70拠点、約1000人の調査員を擁する。全国をくまなく歩き回り、地図を最新の情報に更新する。都市部では毎年調査を実施。足で稼いだ情報の蓄積が、他社の追随を許さない。
2012年12月、これらの調査に新しい項目が加わった。建物敷地の入り口と建物の玄関がどこにあるかチェックし、調査票に書き込む。なぜか。
「目的地周辺です。ガイドを終了します」。カーナビでこんな音声案内を聞いたことがある人は多いだろう。これは、カーナビのシステムで、目的地に最も近い幹線道路がゴールに設定されるため。河川を挟んで向こう側に目的地があったとしても、ナビは川の手前の幹線道路がゴールだと判断してしまう。
ゼンリンが目指すのは、「ドアtoドア」のサービスを可能にする地図データの構築だ。そのため、得意の人海戦術で玄関の情報を集め始めた。調査から3年半。人口20万人以上の都市では調査を終え、2017年の秋頃には玄関まで案内できるナビが登場する見込みだ。
この機能は、自動運転が実用化された時、さらに重みを増す。消費者が自動運転に求めるのは、まさにドアtoドアの自動化。無人運転が実用化されれば、玄関先までの運転は必須になる。
センサー類で集めた高精度情報と、人海戦術による住宅1軒1軒の情報。そこにカーナビで培ったルート案内のノウハウを加えれば、自動運転時代の強みになる。ADAS(先進運転支援システム)事業推進室の竹川道郎室長は「全国3500万軒の玄関を愚直に集められる会社はうちだけ」と自信をのぞかせる。
地図の販売から新サービスへ
ただし、ゼンリンにとって自動運転時代の到来が脅威となる可能性もある。地図世界大手の独ヒアは5月、自動運転向け地図の実証実験をパイオニアと共同で日本で始めると発表。IT(情報技術)など他産業からの参入も目立ってきている。
そうしたライバルに対抗するために、ゼンリンは社内の仕組みを刷新した。今年1月、住宅やカーナビなど、それまで用途ごとに分かれていた情報を一元管理するデータベースを構築。髙山社長は「コストを下げ、新規投資に振り向けるのが狙いだ」と語る。
新たなビジネスの創出も課題となる。一般道まで含めた高精度地図を全国規模で整備するには負担が大きく、自動運転向けだけで利益を出すのは難しい。他の用途を開発しなければ、海外勢を含めた競合他社に後れを取る。2020年3月期までの中期経営計画で掲げたキーワードの一つは「用途開発」だ。
2月にはNTTドコモと共同で、スマホに搭載されたセンサーを使った屋内ナビゲーション技術を開発。5月には、ドローンの飛行可能エリアを地図上で示すサービスの提供を開始するなど、矢継ぎ早に地図を使ったサービスを開始している。高精度地図でも、こうした新サービスを打ち出せるか。
これまでは、主に住宅地図の販売がメーンビジネスだった。しかし自動運転用の地図では、クルマからの最新情報をリアルタイムで反映し、鮮度を保たなければならない。「売り切り型」のビジネスは不可能だ。自動運転という波は、ゼンリンに地図販売会社から、地図を情報基盤としたサービス会社への転換を迫っている。
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