例えば、走行レーンの認識。センサーでクルマの近くの状況を把握するだけでは、複数のレーンのうち、どれが前方の交差点で右折レーンになるのかを判断できない。高速道路のジャンクションなど、複雑な交差点ならなおさらだ。地図と連動することで、どのタイミングでどのレーンを走るのが効率的なのかを判断することができる。

 また自動運転では、自車の位置を精度良く把握することが欠かせない。地図上の標識や信号機、停止線と、クルマに搭載したセンサーで認識した周囲の情報を照合すれば、自車の位置が正確に測定できる。さらに、数km先の事故情報などが地図で分かれば、それを回避するように自動的にルートを変更することもできる。

 クルマのセンサーを補完する「第2のセンサー」としての地図が、自動運転に必須なのだ。しかし、現在カーナビゲーションなどで使用されている地図には、決定的な問題点がある。精度だ。

 日本国内の地図は、国土地理院が保有する地形図などがベースになっている。ゼンリンなどの地図メーカーがそこに道路や建物の形状、交通情報を付加し、商業用地図として販売している。

 ベースの地図の誤差は、都市部で数m程度。山間部では十数mの誤差がある場合もある。また、現在の地図は多くが2次元で、高さの情報が含まれていない。高い精度はもちろん、標識や信号の位置を特定するのに必要な「高さ情報」が自動運転には必要になる。

 ゼンリンがレーザー計測車両を走らせているのはこのためだ。自ら高精度な情報を収集し、自動運転時代に必要になる地図を作る。ゼンリンがこう決意したのは、2008年だった。

「点」の情報を「線」と「面」に

 福岡県北九州市にあるゼンリン本社。その2階に足を踏み入れると、数十人の社員が、それぞれのデスクでパソコンモニターを凝視しながら静かに作業を進めていた。

 モニターに映っていたのは、計測車両のレーザーが拾った、おびただしい数の細かい点の集合だ。点の集合を、レーンなどの「線」や防音壁や道路標識といった「面」として意味を与え、3次元地図に編集する。

 「このスピードじゃ、とても2020年に間に合わないぞ」

 2008年当時、社内ではこんな声が上がった。ゼンリンと共同で高精度地図の製作を進めている自動車メーカー各社は、2020年頃には高速道路での自動運転の実用化を目指していた。走行実験のためにも、その数年前には全国の高速道路の高精度地図が必要になる。

 当初は、点の集合を手作業で編集していたが、なかなか作業が進まなかった。そこでゼンリンは、集めた情報を地図データに変換するソフトウエアを独自で開発して自動化を進め、手作業は複雑な箇所の入力や確認だけにとどめる新たなプロセスを構築した。

 それが可能だったのも、同社が地図編集のノウハウを持っていたためだ。「どの情報は抽象化しても問題ないか。逆に詳細なモデル化が必要な場所はどこか。我々が培った技術が生きた」(ゼンリン研究開発室の原口幸治室長)。

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