「付加価値を生む丸の内」に

 街の空気を変えるため、道沿いに海外ブランドや有名レストランを呼び込んだ。車が行き来するコンクリートの道路を石畳に変え、歩道も広げ往来を促した。休日にも人を呼び込もうと、ゴールデンウイークには路上を舞台に音楽イベントを開き、芸術オブジェも道に設置した。こうした取り組みが奏功し、丸の内はカップルや家族連れが訪れるようになっている。

富士川を望む御殿場アウトレット施設(写真=清水 真帆呂)

 「職」に「遊」という機能が加わった丸の内。三菱地所はそこに「泊」と「住」の役割を加えようとしている。象徴的なのが7月に開業する高級日本旅館「星のや東京」。都心部ながら、地下 1500m から温泉のくみ上け”に成功した。2017年開業のビルには地区で初となるサービスアパートメントが併設される。海外ビジネスマンが長期出張で訪れ、休日は浴衣姿で街を歩く場面も見られるかもしれない。

 魅力を高めるもう一つの手立てが災害対策だ。東日本大震災などをきっかけに、企業はBCP(事業継続計画)対策を強く意識するようになっている。

大型連休には丸の内で音楽祭を開く

 4月に開業した「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」は地上31階、地下4階の高層ビルで、延べ床面積が約19万平方メートルという巨大ビル。電気やガスの供給が途絶えても3日間は稼働できる非常用発電装置を整備した。三菱グループ系の製薬会社の協和発酵キリンや三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券などは災害対策が充実している点も評価して本社機能を移転。丸の内・大手町地区で最大級の賃貸面積ながら満室開業となった。

 地域の活気は生まれつつある。しかし「職住遊」を近接させ、災害対策を講じるのは今や大規模再開発のセオリーに近い。にぎわいを今後も維持・向上するにはプラスアルファが必要。「新しい企業を生み出す街にすることだ」と合場直人・専務執行役員は指摘する。

仲通りで丸の内ストリートギャラリーを展開

 先例が大手町フィナンシャルシティ グランキューブにある。3階に入居するのは海外のベンチャー企業など。成長企業の事業を支援して育成し、将来的には大きなオフィスを借りてもらおうとそろばんをはじく。新丸の内ビルディングに開設したビジネス支援施設では、ビジネス向けSNS (交流サイト)のリンクトイン・ジャパンが巣立ち、丸の内で増床移転するという成功例を持つ。この循環を今後も生み出す狙いだ。

 安心・安全が確保された街に働く人だけでなく遊ぶ人、住む人、泊まる人を呼び込む。働く人は世界的な金融機関から有望なベンチャー企業や個人商店まで幅広く受け入れる。そうすることで「丸の内は付加価値が生まれる街」という実績を作り、390m摩天楼への入居につなげる。「完成する2027年度までに丸の内は、新しい魅力的な企業が入居したくなる地域になるだろう」と杉山社長は言う。

 丸の内地区は1890年に三菱グループを興した岩崎弥太郎の弟、弥之助が明治政府から土地の払い下げを受けた土地だ。その後、築かれた赤レンガの街並みは日本の近代化の象徴となった。戦後は大手金融機関やメーカーの本社機能が集積、高度成長期を支える代表的なビジネスセンターに成長した。

 しかし新宿の旧淀橋浄水場跡地が再開発されて誕生した副都心や、森ビルなどによる東京都港区の再開発が、丸の内の存在感を薄くした。対抗上、まず手掛けたのが東京駅前の丸の内ビルディングの建て替え。以来、壮大な丸の内改造計画は15年近くにわたって続くが、390m摩天楼の建設計画は、さらに向こう10年、三菱地所は丸の内地区を磨くという意思表示でもある。