業界再編の機運が高まる飲料業界でダイドードリンコが事業モデルの変革に取り組んでいる。シェア3%で業界6位と状況は厳しく、生き残りに向けた打開策はあるのか。強みを持つ自動販売機でのIoT(モノのインターネット化)と海外展開に将来をかける。

(写真=太田 未来子)
(写真=太田 未来子)

 6月上旬、大阪市内の繁華街で、ダイドービバレッジサービスなにわ営業所の本谷晴彦リーダーは自動販売機に次々商品を補充していた。そこに「兄ちゃん、どれがおすすめかな?」と声を掛けた初老の男性。本谷さんが丁寧に説明すると、男性は「おおきに」と笑顔で1本の缶コーヒーを購入した。「ありがとうございます!」。本谷さんの声が繁華街に響いた。

 「日本の清涼飲料業界における最大のイノベーション」。1960年代前半の登場から50年以上、消費者にとって自動販売機は当たり前の存在だが、世界を見れば、町中にこれほどの自販機網がある国は、まずない。そのビジネスにほぼ特化して成長してきたのが、業界6位のダイドードリンコだ。

 本谷さんはダイドー子会社で自販機や商品の管理を任される、「ルート担当者」と呼ばれる社員。日々多くの自販機を回り、品切れのチェックや商品の入れ替えに汗を流す。そのおかげで消費者は夏にキンキンに冷えた炭酸飲料、冬は熱々の缶コーヒーなど季節に合わせた商品を24時間購入できる。

 日本で自販機がこれほど普及した背景には、温度管理などの技術革新や、治安が良く破壊や盗難が少ないことに加えて、ルート担当者の勤勉な働きぶりも無視できない。企業側にとっても、自販機は安売りされず、安定した価格で販売できるメリットがある。

グループ売上高の7割は自動販売機が占める
●2016年1月期の売上高構成比
グループ売上高の7割は自動販売機が占める<br/>●2016年1月期の売上高構成比
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 全国清涼飲料工業会によると、全国の自販機の台数は約250万台で、飲料の販売額は約2兆円。そのなかで、ダイドーは約28万台を保有する。ダイドーグループの売上高の7割は自販機が占める。飲料に限ってみれば自販機販路の構成比は84.5%(業界平均は3割程度)と異色のビジネスモデルだ。

 だが今、試練に直面する。「何も手を打たなければ生き残れない」。40歳で同社を率いる髙松富也社長はこう言い切る。自販機を取り巻く環境が厳しさを増し、従来のビジネスモデルが通用しなくなりつつある。結果として、M&A(合併・買収)が過熱する飲料業界で、他社の標的になりかねないためだ。これまでも「次の再編の焦点はダイドー」という観測が、何度も浮上してきた。

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