久保田社長を会社に誘ったのは現在会長を務めている上田渉氏。上田会長の祖父は書斎を持つほどの読書家だったが、緑内障により視力を失った。それでも拡大鏡などを使って本を読もうと試行錯誤する祖父の姿を見た上田会長は「目の不自由な人でも楽しめるコンテンツを作りたい」と考えるようになり、事業を思い立った。

 創業は04年。音声コンテンツを作るため、出版社に何度も掛け合った。ただ最初は著作権の問題や収益を生めるのかといった懸念から、どこからも相手にされなかったという。上田会長の思いに賛同し、共に会社を立ち上げた久保田社長は「読者の感想を集める作業など、本業と関係のない仕事も請け負いながら地道に出版社との関係を作っていった」と当時を振り返る。

 上田会長と久保田社長は大学時代、同じゼミに所属していたが、特に親しい仲というわけではなかった。上田会長に起業しないかと誘われたとき、久保田社長は、すでにコンサルティング会社から内定を得ており「実際に自分がオトバンクの社長になるとは思ってもみなかった」という。

 上田会長は「考える前に行動するタイプ」。出版社などへ出向くフットワークの軽さがあるが、「当時は企画書の作成や事務的な仕事が苦手だった」(上田会長)と話す。その点、久保田社長はコンサルティング会社の内定をとるくらいに事業の管理運営が得意。上田会長の行動力を久保田社長がうまくアシストしてきた。実際にオーディオブックの製作・販売を始めてからは、著者による告知や人気声優の起用が話題となり、会員も増加。オーディオブックの1カ月間のダウンロード数は約5万冊に達するまでに成長した。

 オーディオブックの市場は今後の拡大が期待される。オーディオブックの利用者が多い米国では、その市場規模は2000億円といわれ、書籍市場全体の10%に相当するといわれる。日本は書籍全体の市場が1兆円なのに対してオーディオブック市場はまだ50億円程度にとどまる。オトバンクはこのうち7割ほどのシェアを占めるとみられるが、「潜在的な市場はさらに1000億円ほどあるとみている」(上田会長)。

会員数は22万人を突破
●「FeBe」の会員数推移

 高齢化が進んで音声コンテンツ需要が高まることに加え、16年4月から施行された「障害者差別解消法」によって、オーディオブック普及の機運が高まっていることも追い風だ。オトバンクは今後、音声コンテンツの領域を書籍以外の新聞や雑誌などにも広げていく計画だ。

「音のインフラ」を作る

久保田裕也社長は技術の発達に伴い音声コンテンツの重要性が高まるとみる (写真=都築 雅人)

 「目の不自由な人が楽しめるコンテンツを」というところから出発したオトバンク。同社が将来的に目指すのは、「音のインフラ」を作ることにより目の不自由な人にとっての究極のバリアフリーを達成することだ。

 久保田社長は、ウエアラブル端末の発達などで音声コンテンツの重要性はより大きくなるとみる。「スマホも音声入力で全ての操作が行えるようになり、街には音声ガイダンスなどにより、目が不自由な人も自由に移動できる仕組みが近い将来できるのではないか。そんな社会の実現に向け、サービスを充実させたい」(久保田社長)。あらゆるコンテンツを音で楽しむことができる、そんな社会の実現をオトバンクは担っている。