2011年にシリコンバレーのデータ分析ベンチャー、Kosmixを買収、アット・ウォルマートラボに改称後も矢継ぎ早にM&A(合併・買収)に乗り出している。これまでに買収した企業は15社。エンジニアなど技術者の数は3000人を超える。昨年10月には、Eコマース関連に今後2年間で20億ドルを投資すると発表した。

 自前のIT部隊、ウォルマートラボを通じて進めているのは、オンラインショッピングシステムそのものの一新だ。

 それまでEコマースのシステムは外部ベンダーの技術の寄せ集めだった。だが、それでは修正や変更に時間がかかりEコマースの世界では戦えない。そこで、2012年に「パンゲア」と呼ばれるプロジェクトを開始、Eコマースのシステムそのものを自前で作り上げた。結果として、扱う商品が200万から1000万まで拡大、消費者へのレコメンド機能も大幅に改善した。

6月3日に開催されたウォルマートの株主総会は相変わらずの盛り上がりを見せた

米国事業は最悪期脱したが…

 もちろん、マクミロンCEOが認めているように、Eコマース売上高の伸び率は四半期で鈍化しており、期待ほどの伸びを見せていない。オンラインで扱う商品数はまだまだ足りず、マーケットプレイスとしての魅力を高めるため、自社以外の商品を強化していくことも必要だろう。

 また、顧客の囲い込みでもアマゾンに後れを取っている。

 ウォルマートはアマゾンプライムと同様の無料配送サービスを限定的ながら始めている。今年5月には、3日間以内だった配送期間をアマゾンプライムと同等の2日に短縮、年間利用料も49ドルとプライムの半値に下げた。

 もっとも、プライムの会員数は全米の全世帯数の約3割に当たる約3500万世帯に達している(コーウェンのデータ)。また、ジェフ・ベゾスCEOが「会員にならないのはばかげていると思うくらいにプライムの価値を上げたい」と株主へのレターに書いているように、アマゾンは無料配送だけでなく動画や音楽の無料配信など様々な付加価値を提供して、会員をつなぎ止めている。

 それでもウォルマートの、既存の店舗や従業員を活用して消費者に商品を届けるという方向性は間違いではない。たとえシームレスショッピングという戦略自体が、膨大な店舗や従業員を抱えるがゆえの苦肉の策だとしても。

 ダイワ・キャピタル・マーケッツ・アメリカによると、2000年代前半には、ウォルマートの米国の既存店売上高は前年比伸び率が5%を超えていたが、その後は徐々に下落、金融危機後はマイナスになることも増えた。

 在庫管理の改善や店舗の整理整頓、値下げ、生鮮食品の強化などの改革を進めているが、直近の四半期はわずか1%増。この2年で賃上げなど従業員の待遇改善に27億ドルを投じているのも、短期的には利益圧迫要因だ。

 実際、店舗をベースにした成長は限界に達しつつある。

 ウォルマートは今年1月、米国で154店を閉鎖すると発表した。その3分の2は小型店の実験フォーマット「エクスプレス」である。スーパーセンターの出店余地が限られる中で、新たな成長の柱と期待されたが、巨大なスーパーセンターと小型店の物流が異なることもあり、事実上、撤退を余儀なくされた。Eコマースに経営資源を投入する方が得策という判断だが、裏を返せば店舗とデジタルの融合以外に成長の伸びしろがないということだ。

 「我々はウォルマートの未来を楽観視している」。6月3日に開催された株主総会で、創業一族で取締役会長のグレッグ・ペナー氏はこう述べた。確かに、アマゾンと対等に戦えるだけの基本装備は手にしつつある。後はそれをどこまで深化させることができるか。残された時間はそれほど多くない。

(ニューヨーク支局 篠原 匡)