「Saving Time」という付加価値

 例えば、プライムナウ。これはアマゾンのプライム会員向けに、2時間以内に商品を配送するという地域限定サービスだ。自社倉庫の商品を届けるだけでなく、マンハッタンの高級食材店、イータリーなど外部企業とも連携しており、オーガニック商品やこだわりの逸品をアマゾンで買うことができる。

 また、加工食品や生鮮品の同日配送サービス、アマゾン・フレッシュもロサンゼルスやサンフランシスコ、ニューヨーク市などの大都市で利用可能だ。このほかにも、食品や日用品などを一箱にまとめて送るアマゾンパントリーというサービスも展開している。

 こういったアマゾン自身のチャネル拡大や、食品のオンライン購入に抵抗がないミレニアル世代(1981~98年生まれの世代)の台頭によって、2019年にもアマゾンが食品・飲料市場でトップ10に入るとコーウェンは予想する。

 もちろん、アマゾンにも越えなければならないハードルはある。

 日本とは違って米国は、日本の宅配ほどのきめ細かさがなく、「ラストワンマイル」のインフラが未整備だ。実際、2013年のクリスマスシーズンでは配送業者が大量の商品をさばけず遅配が相次いだ。また、生鮮品をはじめとした食品には消費期限があり、温度管理を必要とするものが少なくない。当然、保管や配送など物流のオペレーションは従来よりも複雑になる。

 アマゾンもトライアンドエラーを繰り返しながら対象都市を広げているが、生鮮食品やグロサリーの配送網を全米規模で構築するには、もうしばらく時間がかかる。その猶予期間に、どれだけアマゾンと戦うための武器を手に入れるか──。それが、既存の小売業者の生き残りのカギを握る。この問いに対して、ウォルマートが提示した回答がシームレスショッピングだった。

 米国のネット通販では一般的に、家で待っていても、希望の時間通りに商品が届くとは限らないのが実情だ。一方でウォルマートは全米に約4600店を展開しており、人口の90%が店舗から10マイル(約16km)以内に住んでいる。ならば、ウォルマートの店舗網を受け渡しの拠点として活用してもらえば、消費者に「時間の節約」をアピールできる、という発想だ。

 「買い物の時間が短縮できるのがいい。今の競争社会では少しでも時間を節約して働く方がいいでしょ」。カーブサイドピックアップを利用していた若者がそう語っていたように、大手小売りは品ぞろえやサービスだけでなく、別の付加価値を与えないと競争に勝てない。ウォルマートはその付加価値として、従来の「Saving Money(お金の節約)」に「Saving Time(時間の節約)」を加えようとしている。

 経営陣も手応えをつかんでいるようだ。「新規顧客の開拓はかなりの挑戦。ただ、ある店舗で自動チェックアウト(精算)の実験をしていたところ、別のスーパーを使っていた顧客がウォルマートでのオンライン購入を増やした。新しいお客様を引き入れることは十分に可能だ」とグローバルEコマース&テクノロジーのアッシュCEOは語る。

 円滑なシームレスショッピングを実現するためにデジタル関連投資も加速させている。

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