「カイゼン」を日常業務に

 近年、日本経済の大きな課題となっている人手不足と、それに伴う人件費上昇。店舗に従業員が1人しかおらず、すべての業務を担当する「ワンオペレーション」が社会問題となるなど、特に人海戦術を基本としてきた多くのチェーン店がその直撃を受けている。

売上高は20年以上、成長を続けている
●西松屋チェーンの売上高と純利益の推移
売上高は20年以上、成長を続けている<br /><small>●西松屋チェーンの売上高と純利益の推移</small>
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 西松屋の2017年2月期の売上高は前の期比2.6%増の1362億円となり、22年連続の増収を達成した。売り上げが伸び続けているのは、毎年数十単位の出店を続けているからだが、それでも人件費の伸びが利益を食いつぶすことはない。

 店舗数は今年2月時点で全国に908店。普通に考えれば人件費上昇によるコスト増加に苦しむはずが、純利益は同34.8%増の51億円だった。さらに今期も増収増益を見込む。

競合と比べて店舗数が圧倒的
●ベビー・子供用品チェーンの店舗数
競合と比べて店舗数が圧倒的<br /><small>●ベビー・子供用品チェーンの店舗数</small>
*=トイザらスとの併設店含む
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 1990年前半のバブル崩壊とその後のデフレ、2008年のリーマンショック、11年の東日本大震災──。日本の小売業が苦しんできた外部環境の激変を乗り越え、西松屋はひたすら地道な成長を続けている。ちなみに、同社は記録が残る1983年以降、一度も赤字になったことがない。

 組織と仕事の隅々まで合理的な計算によって組み立てられているのが西松屋のDNAだ。そして、その仕組みは固定的なものではなく、製造業の「カイゼン」のような日々の取り組みで柔軟に進化しているのだ。

 「不良品処理の書類作成にムダがある、と現場から不満が出ている」──。大阪市内にある西松屋の新大阪本部。約10人いる業務システム改革部のメンバーが議論するテーマはただ一つ。「いかに業務で生じているムダをなくし、効率化するか」だけだ。

 西松屋では昨年まで、不良品の返品処理を受け付ける際に2種類の書類を作成する手順になっていた。当然、似たような書類を2回作る手間への不満が多かった。

 改革部が主導してシステムを見直し、これを一本化したところ、不良品処理にかかる時間を全店舗合計で年7883時間減らすことができた。これに平均的なパートの時給を900円と想定して掛け算すると、年間700万円近いコスト削減ができる計算だ。

 たかが書類1枚。さまつなことと見捨ててしまいそうな、現場の小さな不満を常に拾い上げ、日常業務として改善し続けている。

商品陳列でも省力化
商品陳列でも省力化
子供服はハンガーが付いたまま納品され、高いところには備え付けの棒で並べる (写真=竹井 俊晴)

 西松屋の顔となっている特徴的な商品陳列も、こうしたたゆまぬ改善の中から生まれてきた。主力商品である子供服は、ハンガーにかかったまま各店舗に納入され、従業員は箱からそれを取り出して、壁のラックにかければ陳列は終わり。高いところにかけるには特製の棒を使うが、客も商品を取りたい場合は同じ棒を使う。

 店内にはワゴンがなく、服を平積みにするスペースもないため、いちいち畳む手間が省ける。さらに会計の終わった服はハンガーを付けたまま客に渡してしまう。ハンガーをいちいち取り外し、まとめて管理する方が非効率だとこれまでのデータで実証されているからだ。

多機能に逃げない

 西松屋の主力商品であるベビー・子供服は、Tシャツ479円、ワンピース979円など、単価1000円を下回る商品が圧倒的に多い。安さを武器に消費者の支持を集めてきたが、これを実現してきたのがPB(プライベートブランド=自主企画)商品だ。しかし、これは商社やメーカーに作りたい商品の概要を伝えるだけで、生産工程まで入り込んではいなかった。

 デフレに慣れきった消費者。ただ安いだけではこれまでのような支持を集め続けることはできない。そこで、10年ごろから本格的なSPA(製造小売業)へとかじを切る。

 大村禎史社長が目をつけたのが、00年代後半からリストラの嵐が吹き荒れた電機メーカーなどの製造業だった。大村社長自身も理系出身であり、新卒で山陽特殊製鋼に勤めた経歴を持つ。

 電子機器でもベビー・子供用品でもモノ作りの基本は同じ。ノウハウを持った人間を積極的に中途採用することで、SPAへの転換を加速させる狙いがあった。

No.1 「脱落防止」に絞る
No.1 「脱落防止」に絞る
元セイコーエプソンの伊藤氏が開発した抱っこひもは、赤ちゃんの肩と胸をベルトで押さえる

 「伊藤さんには抱っこひもを開発してほしいと思っています」。元セイコーエプソンの技術者、伊藤清志氏は転職の面接で担当役員からこう言われた。

 そこから抱っこひもと格闘する日々が始まったが、大村社長からの指示はたった1つ。「余計な機能を取り払い、本当に必要な機能だけに絞り込め」

 そんな時、伊藤氏は抱っこひもから子供が脱落し、頭を打つなどして大けがを負うケースが多いことが社会問題化していることを知った。「本当に必要な機能はこれだ」。そう考えた伊藤氏は、赤ちゃんの肩から胸をカバーするベルトを付けることで、赤ちゃんが滑り落ちないようにする仕組みを考えた。そうして生まれた「ダッコール」は、類似商品がないこともあり、昨年11月末の発売以来、累計9000個と好調な売れ行きとなっている。

 伊藤氏が驚いたのは、西松屋流の商品開発の仕組みだ。企画から仕様書の作成、原材料の調達、商品パッケージの企画、そしてクレームの受け付けまで、基本的に1人で責任を持つ。

 商品開発の川上から売り場という川下までを一気通貫で担当することで、例えば川下で吸い上げた顧客の声を、川上の生産工程に柔軟に反映しやすくなるのだという。

No.2 「伸縮性」に絞る
No.2 「伸縮性」に絞る
元パナソニックの黒崎氏が作ったストレッチパンツは、100万本以上を売る大ヒット商品に

 累計販売数が100万本に達した「ストレッチパンツ」を生み出したのも、同じ転職組で元パナソニックの技術畑にいた黒崎敏彦氏だ。「多機能にした分、値段を上げる、というのは作る側からすると楽だった。多機能に逃げない、というのが本当は一番難しい」。黒崎氏はメーカー時代に痛感したモノ作りの教訓をそう話す。実はストレッチパンツの原型となった1世代前の商品は数千本しか売れない、「ごく普通の商品」(黒崎氏)だった。

 この西松屋創業以来の大ヒット商品誕生にも、大村社長の「本当に必要な機能だけ」という指示が生きている。重要なのは、子供がかがんだりするときにお尻やおなかが出てしまわないこと。だから股上を深く取り、十分に伸びる素材にした。逆にお尻のポケットは1つに減らし、飾りのステッチやパッチもすべて取り払った。

1世代前のストレッチパンツ(左)と現行品(右)。パッチや飾りステッチなどを全部取り去った
1世代前のストレッチパンツ(左)と現行品(右)。パッチや飾りステッチなどを全部取り去った

 そうして15年に発売したところ、全国の店で売り切れが続出した。「パンツを作るプロから見れば、あって当たり前のものがない。でも、お客さんから見れば、全部必要ないものだった」と黒崎氏は振り返る。

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