リオンが手掛けている地震計は、コイル状の部品の動きを検出して揺れの発生を知る「感震部」と、そこから出力した電気信号を解析・処理する「処理部」で構成する。そして処理部が出力したデータが、多重化された通信回線を通じてテラスに送られる。100分の1秒ごとに感震部からデータが出てくるので、そのわずかな間に処理部はデータの処理を済ませなければならない。

 また、当然のことながら高い信頼性が要求されるし、誤検知を避ける工夫も求められる。単に揺れたらシグナルを出すというだけのものではない。ユレダスやテラスといった地震防災システムだけでなく、そのシステムの目となる地震計の改良も不可欠なのだ。

すべてがかみ合って安全を実現

 また、テラスが送電停止の指令を出したら、今度はそれを受けて安全に、しかもできるだけ迅速に列車を止める必要があり、それは車両側の仕事である。そこでN700系車両から最新のN700Aへのバージョンアップの際、ブレーキ機能の強化が図られた。

一部の車軸ではセラミック粉の噴射装置を装着しており、制動時に車輪が滑走する事態を防いでいる(写真=井上 孝司)
一部の車軸ではセラミック粉の噴射装置を装着しており、制動時に車輪が滑走する事態を防いでいる(写真=井上 孝司)
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 まず、地震の発生を受けて非常停止するための「地震ブレーキ」を強化した。制動力を高めるため、ブレーキディスクの構造を「内周締結式」から「中央締結式」に改めた。

 少し専門的になるが、内周締結式ディスクブレーキは、使い続けてディスクが発熱すると反ってしまい、ブレーキライニングがディスクに接する面積が減ってしまう。その反りを抑えたのが中央締結式ディスクブレーキだ。ブレーキディスクが発熱しても、ブレーキライニングが接する面積をより広くとれるようになったので、安定した制動力を発揮できるようになった。

 こうした改良によりN700Aでは制動距離を10~20%短縮、3km程度で非常停止できるようになった。ちなみに初代の0系では、最高速度が時速210~220kmと遅かったにもかかわらず、停止に4km程度を要していたという。ブレーキ関連などの改良点は既存のN700系にも翻って反映されており、既に全車の改造が終了している。

 地震による大きな揺れが生じたときには、線路や構造物に影響が生じていないかどうかを徒歩巡回によって確認する必要がある。しかし、前述した構造物の強化によって、徒歩巡回を必要とする閾値は高くなっている。つまり、揺れの度合いが少ない場合には、さほど間を置かずに運行を再開できるようになってきた。

 東海道新幹線は日本の大動脈であるだけに、揺れが収まったら速やかに運行を再開しなければならない。新幹線の地震対策はさまざまな施策・システム・機器の組み合わせで成り立っており、その総合的な成果として「安全な新幹線」を実現しているのである。

井上 孝司
テクニカルライター
軍事研究家
日本マイクロソフトを退職後、1999年にテクニカルライターとして独立。主に技術解説記事を手掛け、IT分野から鉄道・航空・軍事まで幅広くカバー。近著に『戦うコンピュータ(V)3』があるほか、鉄道技術について『新幹線 EX(エクスプローラ)』参照)に連載している。
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