大地震が発生した際、高速移動している新幹線はどのように安全性を確保しているのか。初期微動を検知して送電を瞬時に止めるシステムを中心に、幾重もの対策が施されている。鉄道にも詳しいテクニカルライターが東海道新幹線の地震対策を解説する。

(日経ビジネス6月19日号より転載)

新幹線には地震発生時に安全に列車を止めるシステムが備わっており、しかも改良が続いている(写真=井上 孝司)
新幹線には地震発生時に安全に列車を止めるシステムが備わっており、しかも改良が続いている(写真=井上 孝司)

 日本の大動脈である東海道新幹線。最高時速が285kmに達する高速列車が、1日に350本近くも往復している。これだけたくさんの列車が高速で移動している中、もし大地震が発生したらどうなるのか。不安に感じたことがある方もいるのではないか。

 筆者は以前、新幹線に乗っている最中に沿線で大きな地震が発生して緊急停止した経験がある。知人は東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の際、ちょうど新幹線に乗っていた。いずれも新幹線は安全に停止しており、転覆どころか脱線もしていない。

 今回は、東海旅客鉄道(JR東海)が取り組む新幹線の地震対策について解説したい。地震に襲われたとき、高速で走っている電車をいかに安全に止めるか。その裏で働いているシステムを掘り下げてみよう。

送電を止めれば自動で停車

 地震が発生すると、新幹線に電気を供給する沿線の変電所(電力会社から電力を受け取って、電車線に2万5000ボルトの交流電気を流す)に指令を出して送電を停止する仕組みになっている。送電停止を探知すると、車両側では自動的に非常制動が作動して緊急停止モードに入る。この間、車内の照明が消えて、蓄電池で作動する非常灯だけになる。

 東海道新幹線では早い時期から、沿線の変電所に地震計を設置して、揺れを検知すると自動的に送電を止めるようになっていた。地震による強い揺れがあると、石油ストーブの自動消火装置が働くが、それと似た機能が備わっている。

 しかし、変電所に地震計を設置する方法では、線路がある場所が揺れてから初めて、停止の指令が出ることになる。それでは最高速度から減速しなければならず、列車が安全に停止するまでに時間がかかってしまう。そこで、沿線地震計とは別に、線路から離れた場所にも地震計を配置する仕組みが取り入れられた。

 そこで問題になるのは、地震の発生を検知したときに、どこの変電所に送電停止の指令を出すかだ。どこかで地震が発生するその都度、全線で停止の指令を出すわけにもいかない。地震が発生した場所と、その影響が及ぶ範囲を正確に割り出す必要がある。

 そこで鉄道技術研究所(現・鉄道総合技術研究所)が研究開発に取り組んだ成果として実現したのが、「地震動早期検知警報システム(UrEDAS : Urgent Earthquake Detection and Alarm System、以下ユレダス)」である。

 ユレダスの基本的な考え方は、初期微動(P波)を検出したら、震央の位置を推定して影響が及ぶ範囲を割り出し、当該範囲内の変電所に送電停止の指令を出すというものだ。主要動(S波)が到達したときには、すでに列車は減速、あるいは停止していると期待できる。東海道新幹線でユレダスを導入したのは1992年3月のことだ。

 地震波が伝わる速度は秒速5~10km程度だという。仮に震源が新幹線の線路から100km離れていたとすると、線路に揺れが伝わるまでに10~20秒かかる。そこで、地震波よりも圧倒的に速い電気信号が先回りして送電停止の指令を出せれば、地震波が到達する前に減速に入れる。なお、時速285kmで走っている新幹線が停止するまでには、ブレーキ性能にもよるが、80~100秒ほどかかる。

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