厚労省の通達が追い風に


MRTは、医療従事者向けのアルバイト情報サイトなどを手がけるベンチャー企業。医師は、常勤先以外で非常勤の診察をするケースが多い。MRTはアルバイト情報サイトの運営を通じて、「どのような勤務先でどんな研究や診療をしているかまでが分かるデータベースを構築した」(馬場社長)。ポケットドクターはこうしたデータベースを活用し、医療機関とも連携することで成り立っている。冒頭の熊本地震の際には、70人が相談医師としてボランティアで参加した。
馬場社長が遠隔診療サービスに注目したのは、自らの突然の腹痛がきっかけだった。昨年春、勤務中に急激な腹痛に襲われた馬場社長は、病院に駆けつけるも、待たされたあげく、専門医に診てもらえなかった。救急外来に駆けつけるべきか、様子を見るべきか。悩んでいた時に友人の医師が、「30分待っても収まらなかったら救急外来に行った方がいい」との助言をくれた。
助言に従い30分待つと、次第に痛みは収まった。その日の仕事をこなし、数日後には精密検査も受けて異常がないことが分かった。「近くにいる専門外医師より、遠くにいる専門医師の方が助けになることがある」と感じてポケットドクターの開発に着手した。
そこに追い風が吹く。厚生労働省が出した通達だ。厚労省は2015年8月に、一通の通達を各都道府県に送った。通達は、それまで「基本NG」と捉えられていた遠隔診療を「基本OK」とするものだった。
それまで医師が遠隔診療を行う際は、厚労省が1997年に通達を出した遠隔診療通知に従っていた。そこには「直接の対面診療を行うことが困難である場合」に遠隔診療が可能とある。例えば、「離島、へき地の患者」に対してだ。一方、「逆に離島へき地以外はできない、という印象を与えてしまっていた」(厚労省)。そこで、同省は改めて、遠隔診療は無診察診療を禁ずる医師法20条に抵触しないという見解を示した。
ポケットドクターの導入は、医師にもメリットがある。例えば、「1週間後に経過を診せに来てください」と言われ、その後調子が良くなり診せに行かなかった経験は誰にでもあるはずだ。物理的に病院に足を運ぶことなしに受診できれば、再診を受けるハードルを下げられ、再診を促すことができる。ほかにも、女性医師が産休中でも自宅で患者からの相談を受けられるといった働き方の支援にもなる。
今後は、医療機関との連携強化や、インターネットに接続した機器との連携も検討する。例えば、医療施設で撮影したMRI(磁気共鳴画像装置)の画像をアプリを通じて見られたり、各種データをポケットドクターと連携させたりといったことだ。
●世界の遠隔診療市場の推移予測

遠隔診療の市場は、世界的に見れば、2018年までに45億ドル(約4900億円)と2013年から10倍超になるとされる。馬場社長は、医療課題先進国として、アジアを中心とした海外市場も狙えると期待をかける。早期にアルバイト情報サイトなどを含む全事業で売上高100億円を達成し、そのうちポケットドクターで20億~30億円をかせぎたい考えだ。国内5000万人以上が持つスマートフォンが、「おかかえ医師」になる日がくるかもしれない。
(日経ビジネス2016年6月6日号より転載、一部情報を更新)
Powered by リゾーム?